厚生労働省の人口動態統計によると、ガンは1981年以降ずっと日本人の死因第1位で、全体の3割を占めており、3人に1人がガンで亡くなっている計算になります。
ガンにならずに健康で長生きするためにはなにを食べればいいのでしょう。
実は、世界の長寿地域で共通して食べられているのが「大豆」。
日常的に大豆を食することでほとんどのがんや糖尿病の予防が期待できることや、更年期障害の症状を抑える効果があるといいます。
今回は、京都大学名誉教授で医学博士の家森幸男先生の著書より、大豆の効果について掘り下げていきます。
日本語の「油」という言葉がなまって、ソイと言われるようになったと言われていますが、そのことからも分かるように欧米には元々、大豆がありませんでした。
大豆の本格栽培が始まったのは19世紀に入って以降ですが、欧米ではこの栄養豊富な大豆を主に家畜の飼料用として栽培していて、人間の食用にする習慣はほとんどありません。本当にもったいないことです。
大豆に含まれるすばらしい健康増進パワーがあります。
まさに「健康食の王様」だと言ってもよいでしょう。
そもそも大豆が長寿の秘密にかかわる食材であることは、世界調査で、脳卒中ラットに大豆を食べさせたところ、脳卒中を防いで長生きしたというところから始まっています。
当時はまだ大豆の成分である「イソフラボン」も何も検出できていない時代でしたが、当初から予想はついていたそうです。
ちなみに尿中に含まれるイソフラボンは大豆の摂取量に反映するそうで、イソフラボンが多いと大豆をたくさん食べていて、少ないとあまり食べていないことになります。
世界調査の結果を分析するとやはり中国・貴陽やハワイのヒロ地区など、多くの長寿地域では大豆がたくさん食べられていたのです。
大豆を食べている長寿地域の中でも、中国の貴陽という地域では大豆や大豆製品が本当によく食べられていて、豆腐、納豆、豆乳といった日本でもおなじみの大豆製品以外にも、干し豆腐、沖縄の「豆腐よう」のような発酵した豆腐、豆腐をチーズ風に発酵させたのものなど、ひじょうにバラエティ豊かな豆腐のバリエーションがあったそうです。
さらには豆腐を原料にした「豆腐麺」もあり、見た目はうどんのような麺で、これを豆乳のスープで食べるので、Wソイフードです。
出勤前のサラリーマンが市場で売られている焼いた厚揚げのようなものをハンバーガーのように立ち食いする姿が見られるそうで、まさにファストフードまで豆腐なのです。
貴陽の人たちは、とにかく大豆を徹底的に利用して、食べつくす知恵があるようです。
実際、貴陽の人たちの血圧は、中国12カ所の調査した中で広州についで低い数値が出ており、血圧が低ければ当然、脳卒中も心臓死も起きにくくなるので、やはり大豆こそ長寿を守る重要な食材だということを納得したわけです。
大豆をよく食べる地域では一様に血圧、コレステロール値が低く、心臓病、心臓死が少なく、さらには肥満も少ないという結果が出ています。
逆に大豆を食べない地域では「死の四重奏」と言われる肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病が多く、また寿命も短かくなってしまっています。
では大豆がなぜスーパー健康食なのかという3つの秘密に迫ってみましょう。
大豆にはたんぱく質、脂質、炭水化物という、私たちの体にとってなくてはならない3大栄養素がバランスよく含まれています。
特にたんぱく質は、肉や魚と同じくらい質が高く、大豆は「畑の肉」と言われるように、実に30%が植物性たんぱく質でできています。
「アミノ酸スコア」という質の高いたんぱく質は、食品に含まれる必須アミノ酸のバランスで見ることができます。
大豆のアミノ酸スコアは牛肉・豚肉などの肉類、アジ、サケなどの魚と同じ100です。
トウモロコシ、そば、バナナなどにも植物性のたんぱく質は含まれますが、肉や魚などの動物性たんぱくに比べると、劣る場合が多いのです。
しかし、大豆は魚や肉と肩を並べるほど良質なのです。
大豆は脂質が豊富で、カロリーが低いという利点があります。
大豆と同じ量のたんぱく質を肉で摂ろうとすると、カロリーも高く、余分な脂肪も摂ることになってしまいます。
さらに大豆のたんぱく質は悪玉コレステロールを下げることも研究によりわかっています。
大豆といえばみなさんによく知られている成分としてイソフラボンがあります。
イソフラボンはフラボノイドの一種で、女性ホルモンに似た働きをするといわれており、実に多くの健康増進効果を持っています。
例えば、
・血圧を低下させる
・悪玉コレステロールを下げ、心臓病を予防する
・更年期障害の症状を抑える
・骨粗しょう症を予防する
・乳がん、前立腺がんの予防
・ほとんどのがんの死亡率を低下させる
・肌を若々しく保つ
ざっと上げただけでも、まさに体にとっていいことずくめの働きをしてくれることがおわかりになるでしょう。
1990年ごろになって大豆にイソフラボンという成分がある事実が注目されるようになり、家森教授も早速ラットを使って研究を始めることにしたそうです。
当時は、イソフラボン1グラム100万円という時代で、安易に動物実験に使えるものではとてもなかったのですが、幸運なことにある大豆を扱う企業から、それまで捨てていたイソフラボンをいただいて、研究に着手することができたのだそう。
「更年期の諸症状の改善」
実験は、メスの脳卒中ラットから卵巣を取り除いて、わざと「更年期ラット」の状態にします。
すると急に毛がバサバサになり、皮膚のつやがなくなった「更年期ラット」は、オスのようによく食べて肥満になり、骨からカルシウムが溶けだして骨粗しょう症も出てきます。
まさに人間の女性の更年期障害と同じ症状となり、急に脳卒中も増えます。
そして、この「更年期ラット」にイソフラボンが最も多く含まれている大豆の胚軸を混ぜたエサを与えます。
すると見る見るうちに毛づやがよくなり、肥満が解消されていったそうです。
骨が溶けだす現象が抑えられ、骨粗しょう症の発生も緩やかになり、更年期の諸症状が改善されたのです。
さらには脳卒中の発生も抑えられたのだとか。 あまりにも見事な結果が確認されたため、家森教授は、急いで世界調査で集めて冷凍保管しておいた尿をチェックしてみました。
その結果、大豆を食べている地域の女性は閉経以降も血圧やコレステロールが低く抑えられていることがわかったのです。
イソフラボンが実際に更年期の症状を和らげていることが確認されたのです。
「骨粗しょう症や心筋梗塞を防ぐ」
イソフラボンを摂取することで「骨粗しょう症」も防ぐことができることがわかっています。
ハワイに移住した高齢女性の尿で、骨密度の低い人と高い人を比べたところ、骨密度の高い人は尿中にイソフラボンが多く出ていたのです。
さらにイソフラボンと心筋梗塞における死亡率の関係を調べたところ、こちらも明らかに関係があり、イソフラボンの摂取量が多ければ多いほど、心筋梗塞による死亡率が低く、イソフラボン摂取量の少ないところでは死亡率が高くなっていたのだそう。
同様に男性の前立腺がん、女性の乳がん、さらにほとんどのがんの死亡率もイソフラボンの量が多ければ多いほど、低下することを確認したそうです。
魚介類に多く含まれているマグネシウムですが、大豆にもたっぷり含まれています。
マグネシウムは、私たちの体に欠かせない微量ミネラルで、私たちの体内において、「酵素」の働きをサポートしています。
私たち人間は食べ物を食べて、それを消化・吸収して、エネルギーを作り、体を動かしていて、この作業のすべてに関わっているのが「酵素」です。
私たちは酵素の働きなしに体を動かすことはできません。
マグネシウムはこのうち、300もの酵素反応に関わっているといわれています。
またマグネシウムは動脈硬化や糖尿病、肥満、高血圧の予防や改善にも一役買っていることがわかってきています。
昔に比べて、日本人のマグネシウム摂取量は激減してきています。
マグネシウムは大豆のほか、玄米や麦に多く含まれていますが、精白した白米では、マグネシウムの含量は6分の1にまで低下してしまいます。
またマグネシウムはわかめやひじき、干しエビやするめなどの乾物、野菜やきのこにも含まれていますが、これらも現代の日本人の食生活では不足しがちになっているのです。
今、日本で糖尿病が増えています。厚労省の調査では糖尿病患者は1000万人、将来的に糖尿病になる可能性が高い「予備軍」がさらに1000万人いるとされています。 もはや国民病といっていいでしょう。
糖尿病はご存じの通り、血液中の糖(血糖値)が慢性的に高くなる病気でで、血糖値の高い状態が続くことで、血管がダメージを受け、脳梗塞や心筋梗塞などの合併症も起こりやすくなります。
ここで大豆の出番です。
大豆を摂ることで血糖値を抑え、糖尿病を予防することができるのです。
兵庫県で50代の人に対して行った調査では、納豆を1日1パック以上食べる人は、1パック以下の人と比べて血糖値が正常な人が多いことがわかりました。
大豆をあまり食べない人は食べる人に比べて血糖値が高い人が3倍以上います。
さらには悪玉コレステロールを低下してくれる大豆レシチン、抗酸化作用を持つ大豆サポニンといった成分も豊富に含まれています。
すばらしい健康効果を持つ大豆ですが、はたして1日にどのぐらい食べればいいのでしょうか。
家森教授の研究によると、イソフラボンの量から割り出した大豆の必要量は「60グラム」だそうです。
大豆を1日60グラム食べることで、脳卒中や心臓死も防げますし、そして乳がん、前立腺がんを防ぎ、あらゆるがんも抑えることができるのです。
大豆60グラムは、納豆1パックと半分です。
かつては「納豆1パック」は60グラムだったのですが、どんどん小型化されてしまい、昨今は多くが40グラムパックになってしまったため、1パックでは足りないのです。
幸い、大豆には豆腐や豆乳などさまざまな加工製品があるので、朝食のヨーグルトに、大豆をすりつぶした粉であるきな粉を混ぜたり、最近は大豆たんぱくそのものをバー状にしたソイプロテインといったものや、肉のように食べられる「大豆ミート」、インドネシアで生まれた大豆発酵食品「テンペ」などもスーパーで見かけます。
飽きないようこれら大豆製品をローテーションして毎日食べたいものです。
まとめ
関西人の私としては納豆を毎日1パック半食べ続けるのは、ちょっと難しいのですが、豆乳や豆腐、きな粉は大好きですし、大豆ミートやテンペもクセがなく肉の代わりとしても料理しやすい食材です。
大豆食品を毎日取り入れて、健康維持に努めたいものです。
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