残された家族にとっては、突然すぎてお別れも言えなかった…となるやもしれませんが、自分事として考えてみると、やはりピンピンコロリは理想かな、と。
人生には老齢期に入って亡くなるまでに、歩行・排泄・食事の順に3つの下りステップがあり、一度下りてしまうと再び上ることはほぼ不可能ですが、この下りステップの速度をできるだけ遅くすることが、ピンピンコロリにつながります。
そのために大切なのは、やはり筋力を維持することのようです。
今回は元気に長生きするために必要な「筋力」のお話です。
・運動をしたいけれど膝や腰、肩に慢性の痛みがあってつらい人
・ケガをきっかけにスポーツをやめてしまった人
・若い頃からこれといった運動をしないまま中高年になってしまった人
・不摂生で太ってしまった人
・コロナ自粛でしばらくジム通いを中断している人
このような方々は、もれなく筋力が低下していると思われますが、人それぞれ年齢や体力、心身の状態が違っていても、筋力アップをあきらめる必要はまったくありません。
どんな方でも今から筋力を増やすことに「時すでに遅し」ということはないのです。
今年、欧州の医学雑誌に中高年がなぜ筋肉を鍛える必要があるかという興味深い研究が発表され(※1)、40〜70歳までの女性24万人、男性20万人のイギリス人を対象として10年間追跡し、筋力、歩行速度、生活習慣などが寿命に及ぼす影響を調査した結果が載っています。
それによると調査期間中に亡くなった男性は6783人、女性は3808人で、男性は女性よりも死亡率が高いことがわかります。
また筋力が弱く、歩行が遅く、生活習慣が悪い男性は、筋力が強く、歩行が早く、生活習慣が良い男性と比べると、10年後の死亡率が約3倍も高いということが判明しました。
中高年になっても筋力を維持・強化することの重要性がよくわかる調査結果ですが、裏を返せば、トレーニングにより筋力を増強させることにより、寿命が延びるということを示しています。
健康で長生きするには「筋肉貯金」が欠かせないともいえるでしょう。
事実、筋肉のもたらす役割と効用はたくさんあります。
日常生活や運動での体の動きが良くなる、ケガをしにくくなる、基礎代謝がアップし太りにくくなる、骨や内臓を衝撃から守る、などなど。
年齢を重ねても筋力アップすることにより、元気に買い物や食事に出かけたり、好きなスポーツを楽しめ、寝たきりのまま要介護になって施設で何年も暮らすリスクも避けられます。
「貯金」ならぬ筋肉の「貯筋」は、あなたの将来を支える心強い財産になるはずです。
ボディビルダーのような見せるための筋肉ではなく、実質的に運動機能を高めるための筋肉を強化します。
コロナ感染の終息が見えない中にあって、今が自宅にいる時間を活用して貯筋習慣を始めるチャンスなのです。
中高年と呼ばれる年齢になり、そこそこのお金の貯えがあっても身体が動かないのでは生活を楽しむことはできません。
お金がない場合は他から借金するという手段がありますが、筋肉は運動して貯えるしかありません。
努力して毎日コツコツと「貯筋」をすると、日常生活やスポーツでの体の動きが良くなり、基礎代謝がアップして太りにくい体質になります。
筋肉を増やすことで、骨や内臓を衝撃から守ることにもつながります。
スッキリした頭で、元気で快適な生活をしながらスポーツを楽しみ、仕事の効率もアップし、認知機能の低下予防にも役立つといった多くの恩恵が得られます。
毎日少しの努力で「貯筋」は増えていくので、最終的には自分自身の人生の財産になってくれます。
厚生労働省の集計によると、2020年の日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳で、いずれも過去最高を更新しました。
一方の健康寿命はというと、最新の2016年データでは男性72.14歳、女性74.79歳でした。
健康寿命とは、平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間です。
平均寿命と健康寿命の差(男性は9.5年、女性は12.95年)をできるだけ短くすることが人生の幸せには欠かせないと言えるでしょう。
やはりそのためにも必要なのは、適度な運動をしながら「貯筋」を貯えることを習慣にすることなのです。
「腹筋(Fukkin)」「太もも(Futomomo)」「ふくらはぎ(Fukurahagi)」
この3カ所の筋肉が「Fの筋肉」です。
Fの筋肉は油断すると衰えやすく、年齢を重ねても元気に趣味や旅行、運動を続けるための要ともいえる筋肉なのです。
Fの筋肉 その1 「腹筋(Fukkin)」
老化によって衰えるスピードが速い筋肉が、腹筋です。
腹筋が衰えてくると骨盤の位置が変わり、腰痛がおきたり股関節が詰まってしまします。詰まった股関節をかばおうとして太もも、膝、ふくらはぎ、足首に痛みが出ることもあります。
身体はつながっているので、腹筋の強化は、健康的なバランスの良い身体を作り、腰痛予防に直結しているのです。
「腹筋の貯筋1.寝ながらできる腹式呼吸」
あなたがポッコリお腹でも、腰痛をお持ちでも大丈夫です。
腹筋に意識を向けて呼吸するだけなので、誰にでも簡単にでき、我慢や根性はまったくいらない腹筋運動です。
●1セット10〜15回行います。
1.あおむけに寝転びます。
2.背筋を伸ばして、3〜5秒かけて鼻からゆっくり息を吸い込みます。
3.丹田(おへその下)に空気を貯めていくイメージでお腹をふくらませます。
4.10秒以上かけて口からゆっくり息を吐き出します。
5.お腹をへこましながら丹田を意識し、吸うときの倍以上の時間をかけ、体の中の悪いものをすべて出すようにゆっくり息を吐ききります。
・うまくイメージできない方は、腰と床の間に手を滑り込ませ、その手を押し潰すように意識ましょう。
「腹筋の貯筋2.寝ながらできるヒップリフト」
もうひとつ腹筋の貯筋にお勧めなのがお尻を持ち上げるヒップリフトです。
するだけで腹筋の貯筋、腰痛予防、その他筋力(腰背部、臀部、ハムストリング)の改善、膝・股関節の安定性向上に効果があります。
●1セット10〜15回行います。
1.あおむけに寝て、両膝を立て、腕を体の横に置きます。
2.足幅を腰幅くらいに広げます。
3.息を吐きながら身体と足が平行になるところまでゆっくりお尻を持ち上げ、丹田を意識しながらお尻に力を入れて5〜10秒間キープします。
・腰をそらせ過ぎないようにしましょう。
・身体に痛みが生じた場合速やかに中止して、医師などに相談してください。
Fの筋肉 その2 「太もも(Futomomo)」
腹筋とともに衰えのスピードが速いのが太ももの筋肉です。
太ももの筋肉量は20歳のときには平均1.8kgありますが、緩やかに減少し、50歳以降は年1%の割合で減っていくと言われています。
年齢を重ねて階段の上り下りがきついと感じたり、よくつまずく人は、太ももの筋肉が衰えている証拠です。
「太もも大腿四頭筋の貯筋1.スクワット」
太ももの前面の筋肉は大腿四頭筋(だいたいしとうきん)、太ももの後面の筋肉はハムストリングと言われます。
スクワットは太ももだけでなくお尻、体幹、ふくらはぎ、腹筋、背筋も鍛えられます。
●1セット10〜15回行います。
1.立った状態で、椅子の背もたれなどにつかまります。
2.お尻を椅子に座るときのように突き出しながら、両方の膝を一緒にゆっくりとしゃがんで、太ももとふくらはぎを約30度曲げます。
(30度がきつい場合は、無理せずできる範囲で、頑張れる場合はできる限り90度まで)
3.太ももの前面が張っていることを意識してください。
4.そのまま5秒間止めて、ゆっくりと元の姿勢に戻ります。
「太ももハムストリングの貯筋1.足の後ろ上げ」
太ももの後面の筋肉(ハムストリング)の貯筋の運動で、正しい姿勢やバランスの保持に必要な背中から太もも後ろ側の筋肉を強くします。
●1セット10〜15回行います。
1.立った状態で、椅子の背もたれなどにつかまります。
2.ひざを伸ばしたまま、ゆっくりと後ろにあげていきます。
3.腰が反らない程度まであげたら、太もも裏が張っていることを意識してそのまま5秒キープし、ゆっくりおろします。
・反動をつけて行わないようにしましょう。
・痛みが出た時は、速やかに中止して医師などに相談してください。
Fの筋肉 その3 「ふくらはぎ(Fukurahagi)」
ふくらはぎ(下腿三頭筋)は「第二の心臓」と呼ばれています。
ふくらはぎの筋肉は、収縮と弛緩を繰り返すことでポンプのような働きをし、血液の循環を助けています。
全身の70%が集まっている下半身の血液を重力に逆らって心臓に戻すために、ふくらはぎは全身の血流において非常に重要な役割を果たしているのです。
「ふくらはぎのの貯筋1.かかと上げ下ろし」
立った状態でのかかとの上げ下ろしで、ふくらはぎ全体にまんべんなく負荷をかけることができます。
●10〜20回を目安に行ってください。
1.立った状態で肩幅に足を開いて、両手で椅子やテーブルなどで身体を支えます。
2.ゆっくりとかかとを上げ、限界と思うところで1秒キープし、ゆっくりとかかとを下ろします。
・かかとを下ろすときには、完全に床に付けずに少し浮かせたままにすると貯筋効果が増大します。
・膝を曲げないようにしましょう。
「ふくらはぎのの貯筋2.柔軟ストレッチ」
ふくらはぎの貯筋は柔軟性とセットで考えます。
鍛えたふくらはぎを柔軟するためのストレッチです。
●左右30秒ずつ1セット1分で、1日1〜2回行います。
1.壁に向かって手をついて立ちます。
2.腕を伸ばし、身体を支えます。
3.ストレッチする足を後ろに引いて、かかとを床に付けたままできる範囲で膝を伸ばしてふくらはぎが伸びていることを確認します。
4.そのまま痛みのない範囲で30秒保持します。
5.反対側のふくらはぎも同様に伸ばします。
・かかとが床から浮かないように注意しましょう。
・膝が曲がらないように注意しましょう。
・つま先がまっすぐ壁を向くようにしましょう。
ふくらはぎが張って筋肉が固くなりすぎると、足首の反りが制限され、つまずいたり転びやすくなります。
筋肉はしなやかでなければ痛める原因ともなります。
参考サイト
(※1)https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/2047487319885041
まとめ
健康寿命を延ばし健やかな日常生活をおくるためには、必要な筋力を保っておくことが重要です。
そのために「立つ」「歩く」などの動作に使う、腹筋、太もも、ふくらはぎの3つのFの筋肉が必要なのです。
コロナ禍で巣ごもりを続けていると運動不足から下肢の筋肉が衰え、転倒やケガのリスクが高くなり、貯筋トレーニングで3つのFの筋肉を鍛えることがますます大切になります。
ご紹介した6種類の運動は、最初時間がかかるかもしれませんが、慣れてくると5〜10分でこなせるようになるので、ぜひ毎日の習慣に取り入れてみてください。
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