なので、他人のアイデアを勝手に盗んだり、手柄を平気で横取りする人を目の当たりにするとかなり衝撃を受けてしまいます。
しかし、他人のアイデアを自分が発案したかのように言う人や、手柄を横取りする人には、ある心理メカニズムが隠れているのです。
今日は「人の手柄を平気で横取りできる人」の思考回路についてお話ししたいと思います。
なぜそんなずるいことが平気でできるのか、みっともないと思わないのか、と理解できない人も多いでしょうが、そこには、過剰な自己愛によるゆがんだ非常に都合のいい利己的帰属という心理メカニズムが隠れています。
自己愛が強すぎるために、この利己的帰属が非常に強く出るのが自己愛性パーソナリティ障害です。
見苦しいほど他人の手柄を横取りしたり、自分の失敗を他人になすりつけたりしますが、それらをみっともないと思わなくてすむように、認知システムそのものが歪んでしまっているので、本人は悪びれずに涼しい顔をしていられるのです。
例えば、A君が同僚のB君から
「今、こういう企画を練ってるんだけど、どうもパッとしないんだよな。目を通して率直な意見を聞かせてもらいたいんだけど?」
と声を掛けられたとします。
企画書を見ると、たしかに惹きつけるものがないように思ったので、率直に思うところの意見を伝えました。
するとB君が「やっぱりそうだよな。何かいいアイデアないかな。一緒に企画を練ってみないか?」と言うので、考えてみることにしました。
A君は、数日かけて自分なりのアイデアをもとに簡単な企画書をまとめてB君に渡しました。
そして、それをたたき台に共同で企画を練り、提案するものと思っていたのですが…。
あるとき、B君が、上司に企画書を見せながら説明しているところに遭遇しました。
席が近く、声も聞こえていたため、内容が自分が練った企画書そのものであることがわかりました。
B君も本当の発案者である自分に聞こえているのが分かっているはずなのに、得意げにひとりで思いついたような説明をしています。
そして上司から、「いいじゃない、それでいこう。なかなかいいアイデアだな」とほめられているのです。
ずるいじゃないかと思ったA君ですが、「それ、共同企画になると思って私が発案したものです」と言うのも気が引けるし、その場では何も言いませんでした。
しかしB君に対する不信感は強烈に募り、非常に嫌な気持ちが残りました。
このように、他人の意見を自分が考えたかのように平気で言うことのできる人は、
・他人のアイディアや意見をアイディア元を明記せずに発信する
・そもそもそれが他人のアイディアだという認識がない
・パクることに全く罪悪感がなく、悪い事だという認識もない
・何か問題がおこると責任を他人になすりつける
・人から称賛を受けたい、自分だけが褒められたい気持ちが非常に強い
・情報価値の重さがわからず簡単に重要機密を漏らす
・自分は何もしないのに、かかわろうとしてくる
などが特徴として挙げられます。
こういう人は、他人のアイデアを耳に挟んだ時点で自分が関与したので、自分が共同でアイデアを生み出したのと同じだと思い込んでいます。
共同で生み出したものを自分だけで横取りするのは違和感がありますが、本人は自己愛が強すぎるため、全く気にしていません。
自分の利害には非常に敏感ですが、他人が被る損害には全くの無頓着です。
そもそも他人の視点に立って物事を考えるという発想ができないのが、自己愛性パーソナリティ障害の特徴の一つでもあります。
よくあるのが、上司の指示通りに仕事を進めたにもかかわらず、それがまずかったとなると、「そんな指示をした覚えはない」と言ってハシゴを外されるパターンです。
例えば、A君がB課長の指示通りに動いていたある進行中のプロジェクトで、トラブルが生じました。
B課長から「部長に呼ばれたから一緒に来てくれ」と言われ、なぜ自分まで行かなければならないのかと思いましたが、仕方なくついて行きました。
するとB課長は部長に謝罪した後、A君に向き直って、「なぜ君は勝手にそんなことをしたんだ!」と非難がましいことを言い出しました。
部長が目の前にいるため、はっきりとは反論しにくく、遠慮気味に、B課長の指示に従って進めたということを説明すると
「何か勘違いしているんだろう。私はそんな指示をした覚えはない。勝手なことをされちゃ困るよ」
などと、とぼけたことを平気で言います。
A君は部長の前で見苦しいやりとりを見せるわけにもいかないと思い黙っていましたが、B課長に対する不信感は極限に達したといいます。
どうしてそこまで露骨にズルいことができるのか、なぜ気まずくないのか、不思議ですよね。
実は、人の手柄を平気で盗む場合は自分の貢献を過大評価し、平気で人に責任をなすりつける場合は自分の責任を過小評価する、都合の良い「認知のゆがみ」が働いています。
良識ある人から見れば理解できないかもしれませんが、人の手柄を盗んだり、人に責任をなすりつけたりして、まったく悪びれた様子もなく平気でそんなことができるこの種の人物は、手柄を奪ったとか責任をなすりつけたといった意識がなく、ほんとうに自分の手柄だと思っていたり、ほんとうに自分の責任ではないと思っていたりするのです。
だからこそ、よけいにタチが悪いのですが。
誰でも自分はかわいいので、無意識のうちに、ものごとを自分に都合良くゆがめて解釈してしまうということはよくあり、多少ならこうした認知のゆがみは、誰にも見られるものです。
しかし、ときにそのゆがみが度を越えている人がいて、自己愛が強すぎるために人の手柄を奪ったり、人に責任をなすりつけたりが平気でできるのです。
人からアイデアを聞いたことは覚えていても、その比重を実際より小さく認知しており、自分が発想した部分の方が大きいと思い込んでいて、ひどい場合は、人から聞いたということ自体を忘れていることもあります。
だからまったく悪びれることがないのです。
平気で人に責任をなすりつける場合も、自分に都合の悪い記憶は抑え込まれ思い出さないので「自分は指示を出していない」「自分は聞いていない」と、本気で思いこんでいるのです。
自分に都合よくゆがめられた事実を本当ののことと思っているため、悪びれることなく、涼しい顔をしていられるのです。
しかし、このような人物に文句を言っても、都合の良い認知のゆがみによって、自分がずるいことをしている、厚かましいことをしているといった意識がありません。
なので当然、罪悪感などもみじんも感じていないのです。
こっちの言い分はまったく通じず、言いがかりを付けられたように思われて、よけいに腹が立つだけです。
このような人物と争うのは不毛だと心得ましょう。
無駄に心のエネルギーを消費するだけなので、とにかく適度に距離を置き、必要最小限のかかわりにとどめることです。
しかし、同じ部署の同僚だったり上司だったりすると、かかわらないわけにもいきません。
振り回されていちいち嫌な思いをさせられていたら、仕事にも差し障ります。
きっちりと未然に防ぐ手立てを講じておきましょう。
アイデアを盗まれるのを防ぐには、極力証拠を残すこと。
意見を求められたり、アイデア交換をしたりした際にも、口頭だけで済まさずに、やりとりを記した確認メールを送ることで証拠を残すようにします。
さらに、当人だけに送るのではなく、関係者にCCで送信し共有しておくのも効果的です。
当人の行動は変わらなくても、関係者と事実を共有しているだけでも気持ちが楽になります。
相手が上司の場合は、意見やアイデアを出し惜しみしたり、仕事の手を抜くことはできませんが、周囲の誰もが似たような目に遭う可能性が高く、そのうち評判は広まっていくものです。
責任をなすりつけられるのを防ぐのにも、証拠をきちんと残すようにしておけば、我慢が限界にきた際に具体的に争う材料が手中にあるので、気持ちに余裕ができます。
たとえ口頭で指示を受けた場合でも、念のための確認として、指示された内容を具体的に明記したメールを送って返信をもらいましょう。
利己的帰属によって、本人は自分が指示したことを忘れてしまうかもしれませんが、確認メールを残していれば、いざとなれば証拠を開示して自分の責任ではないと主張することもできます。
積極的に争いごとを起こすのは、日本的企業においてはあまり好ましくないものの、悪気がなかったら許されるのか、という問題でもありません。
やはり、いざというときのための身を守る手立ては講じておいて損はないでしょう。
嫌な気持ちにさせられるのを治す特効薬はありませんが、「あの人は利己的帰属で自己愛性パーソナリティ障害なんだ」と、相手の心理メカニズムを知っておくことで、多少は対処する方法が明確になってきます。
まとめ
自己愛性パーソナリティ障害の人は平気で他人の手柄を横取りし、自分の責任を他人になすりつけます。
本人にとってはかなり自分に都合よく認知を歪めているためにやってしまう行動なので、悪いなんて微塵も思っていません。
対処方法は、関わらないのが一番ですが、同僚や上司など、どうしても接しなければならない人の場合は、責任の所在がどこにあるのか証拠を残すことを忘れないようにしましょう。
よいアイディアがあると自分も関わろうと近づいてくるので、バッサリ切ることも大切です。
自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本