しかしその能力に科学的な裏打ちがなくても、昨今はリモートワーク中にかかわらず、すたすたと歩いてきて、「にゃお〜ん」と傍でかわいく鳴かれると、ついついかまってしまっては仕事が進まず…、なんていう経験をしている飼い主も多くおられるのではないでしょうか。
今回は、上手に飼い主の顔色を見て賢くふるまう猫の不思議に迫ってみたいと思います。
これまで謎に包まれていた猫の能力が次第に明らかになってきています。
それでも猫の不思議が尽きることはないのですが、飼い主がよく聞いている「ミャオ」とという鳴き声は、意外にも大人になった猫同士ではほとんど使われないというのです。
この鳴き声は本来、仔猫が母親の気を引くための鳴き声だからです。
つまり、大人の猫が「ミャオ」と鳴くのは、対「ヒト」に限られるというわけです。
猫は対「ヒト」用コミュニケーションで自らの強力な武器である「かわいい」鳴き声を使って、人を見事に操っているのですね。
それではその鳴き声は、昔からかわいかったのでしょうか?
その答えを知るためには、祖先種と比較して、本当にかわいくなっているのかを調べる必要がありますが、ここにアメリカのコーネル大学の研究者が実験した猫の鳴き声についての論文をご紹介します。
アメリカのコーネル大学の研究者は、ヤマネコの「ミャオ」という鳴き声と普通の成猫の「ミャオ」という鳴き声を比べる音響解析を行いました。
すると、普通の成猫の「ミャオ」の方がより短く、声が高くなっていることがわかりました。
一般的に高い声は「小さな生き物」が出していることが多く、子どもであることを示唆します。
この研究では、その鳴き声を実際に人に聞かせて、「どれくらい心地よいのか」を評定してもらっています。
この評定を行うことで、人が聞いて「かわいい」声なのかどうか、「かわいい」声に進化したのかどうかが明らかになります。
実験の結果、ヤマネコの鳴き声よりも、成猫の鳴き声の方が人が聞いてより心地よいと判断されました。
この解析結果からも、成猫は自分が出す鳴き声が「かわいい」とわかっているといえそうです。
猫は人と共生するようになって、人が好むような鳴き声を知り、心地よく聞こえるように変化させてきたといえます。
おそらく、猫と人の共生が始まった頃に、たくさんいる猫のなかで、たまたま人が聞いてかわいい声で鳴く猫に、人が多くの餌をあげたりかわいがったりしたのでしょう。
自然とその猫の栄養状態がよくなり、遺伝子を受け継いだ子孫をより多く残したと推測されます。
猫と人の共生の歴史のなかで、かわいく鳴く猫が多く生き残っていったのはそういった理由があったのでしょう。
もしくは、かわいく鳴く甘え上手な猫が屋内で大切に育てられたなどの経緯があったのかもしれません。
日々の暮らしのなかで、猫は人の顔色を読んでいるのでしょうか。
そんな疑問が湧いたことはありませんか。
それに答えた研究があります。
2015年にアメリカの研究者が「猫は人の感情を区別できるのか」について実験をした論文を発表しました。
実験方法は非常にシンプルで、飼い主と知らない人がそれぞれ、楽しい表情や怒った表情を出したときの猫の行動を観察します。
この実験のポイントは、どちらも決して声を出さないこと。
笑い声や怒りの声を出してしまうと、猫が本当に表情だけを読んだのか、声を手掛かりにしたのかがわからなくなるので、声の効果を除外するために、あえて表情のみで観察します。
その結果、猫は飼い主が楽しそうな表情をしているときにはよく近づき、猫自身がリラックスしたり、ポジティブな行動をよく見せることがわかりました。
一方で、知らない人の場合は、楽しそうな表情を見せても怒りの表情を見せても、猫の行動は変化しませんでした。
猫は知らない人の表情には関心がないという大変おもしろい結果が出たのです。
おそらく猫は、すべての人の表情を一般化して理解してはいるのではなく、飼い主がこんな感じの顔をしているときは、近寄っていくといいことがある、と飼い主ごとに特有の学習をしていると考えられます。
そのため、知らない人が同じ表情を見せても、猫にはなんのことか理解していないのかもしれません。
または、知らない人に対してはまったく関心がない可能性もあります。
犬の場合、たとえ知らない人でもポジティブな表情とネガティブな表情を区別できるといわれています。
犬は人の表情を理解することに対して、より一般的に把握しているといってもよいのかもしれません。
まとめ
犬は人間の持つ表情を一般的にわかるのに比べて、猫は自分本位で気まぐれではあるけれど、自分の飼い主がどんな表情をするのかを地道に学んでくれているようです。
どんなに振り回されても、その振り回されること自体を猫好きさんは楽しんでしまいます。
この実験の結果はとっても猫らしいかわいい結果だなと思いました。
岩合光昭の世界ネコ歩きmini