当時三浦雄一郎氏は80歳。
70歳、75歳と2回のエベレスト登頂成功という自己記録を更新し、3度目のエベレスト登頂。
80歳でのエベレストの登頂は世界最高齢で、現在もその記録は破られていません。
2006年に101歳で他界された、三浦雄一郎氏の御父様である三浦敬三氏も100歳で元気に山スキーを楽しんでおられたといいいます。
三浦家が長寿の家系なのは確かなようですが、今回はその「長寿の秘密」を探ってみたいと思います。
実際に全国で5万人を超える百寿者の多くは寝たきり状態にあり、慶応大学の広瀬博士の最近の研究調査でも、自立した生活ができている「元気な百寿者」は全体の18%に過ぎないことが明らかになっています。
白澤卓二先生は三浦雄一郎氏とともに約16年前から抗加齢(アンチエイジング)の共同研究を始められました。
当時ご存命で、100歳を迎えても元気に山スキーを楽しまれていた三浦雄一郎氏の御父様である三浦敬三氏の「長寿の秘密」を探るというカタチで研究が始まったのだそう。
三浦敬三氏が100歳になっても元気に山スキーを楽しんでいる姿は、日本の国民に大きな夢と希望を与えていました。
医学的な観点から敬三氏の長寿の秘密を解析し、国民の誰もが実践できる形で還元することがテーマになっていたようです。
「ローマは1日にしてならず」ということわざがあるように、敬三氏の元気な100歳の姿は長年培ってきた努力の結果の上にあったのです。
もちろん敬三氏自身が素晴らしい長寿の遺伝子の保有者だったことに違いありませんが、南デンマーク大学のクリステンセン教授の双生児の研究によれば、寿命を決めている要因の中で遺伝的要因は25%に過ぎず、残りの75%はそのヒトが生活している環境要因からきていることがわかっているのです。
70歳でエベレストの登頂に成功していた三浦雄一郎氏は、75歳でエベレストの再登頂をめざしていましたが、心臓の不整脈が発見されたため循環器内科の専門医に相談し内科治療を試みておられました。
平地では薬は奏効するものの6,000メートルの高所ではどの抗不整脈薬も役に立たず、別の意味での医学的課題があったです。
最終的に三浦雄一郎氏は、土浦協同病院の家坂義人院長に心臓カテーテル手術を施してもらい不整脈を克服して、75歳でエベレストに再登頂することに成功されたのです。
75歳で山頂に立たれた三浦雄一郎氏がインタビューで「涙が出るほど辛くて、うれしい」と応じられている姿は、私も昨日のことのように鮮明に覚えています。
スペイン・マドリードの国立がん研究所のマリア・ブラスコ博士らの研究グループは、高齢期のマウスにテロメラーゼを活性化できるウイルスを感染させ、動物の寿命が長くなるかどうか検討したところ、50週齢(ヒトの年齢換算で30歳相当)のネズミにウイルスを感染させた場合はマウスの生存率が24%も延伸し、100週齢(ヒトの年齢換算で60歳相当)のネズミにウイルスを感染させた場合はマウスの生存率が13%延伸することがわかりました。
テロメラーゼが活性化したマウスは高齢期になっても骨密度が保たれ、骨粗鬆症が予防されていたそう。
また、そのマウスの内分泌機能を調べたところ、インスリンの効果が保たれていて糖尿病が予防されていることがわかりました。
さらに回転する鉄棒に捕まっていられる時間を検討した結果、ウイルスに感染していない野生型のマウスに比べて約2.5倍も長く鉄棒に捕まっていることができ、つまり、テロメラーゼが体内で活性化すると、高齢期になっても運動機能が保たれ、さらに高齢期の病気が予防されることがわかりました。
テロメラーゼの活性化は萎縮した脳の若返りにも有効性が報告されています。
ハーバード大学のロナルド・デピニョ教授(現テキサス州ヒューストンのMDアンダーソン癌センター所長)は、やはりネズミを用いた実験でテロメラーゼ遺伝子を高齢期に活性化させると、脳の機能を保てるだけでなく、老化に伴い萎縮した脳を若返らせる効果があると報告しています。
若返った脳を詳細に調べると、脳の中で加齢に伴い減少するミエリンの量が若齢のマウスと同じレベルに増加していることがわかったそうです。
50歳を過ぎると脳ドックのMRI検査で脳に白い斑点が観察され「隠れ脳梗塞」または「ラクナ梗塞」と指摘される場合があるのですが、このような微小脳梗塞の多くは無症候性で自覚症状がなく、脳のミエリンの量が減少しているという報告があります。
もし、意図的にテロメラーゼを活性化する方法が見出されれば、将来的に隠れ脳梗塞を克服できるかもしれません。
まとめ
長寿バイオマーカーであるテロメアは、染色体の末端にある繰り返し配列で、加齢とともに短くなることが知られていて、テロメアが長いヒトは長寿の傾向があることが報告されています。
つまりテロメアは命の回数券のようなものです。
テロメアは活性酸素に弱いことが知られているので、激しい運動で極端な低酸素にさらされる環境に長くいることで、活性酸素によりテロメアが短縮する可能性が指摘されています。
元気で長寿を全うするには、体内の活性酸素を中和してこのテロメアをなるべく短縮することなく保護することが大切なようです。
遺伝だけでなく、登山やスキーにはテロメアを保護する何らかの役割あるようです。
これからの先生の研究に期待したいですね。
私も長寿の環境要因、「食事」「運動」「生きがい」の3要素に積極的に取り組んでいきたいと思います。