複数の研究で、EQと仕事での成功には関連があることが示されています。
誰もが生まれながらにして持っているものではありませんが、EQは知能指数(IQ)と違って、習得したり訓練によって高めていくことが可能です。
今回は、ビジネスやプライベートでも重要な「対人関係」を適切にこなしていく人格的能力の一つ、心の知能指数(EQ)についてご紹介したいと思います。
ビジネススキルを体系化した※カッツモデルにおいても「どのマネジメント階層であっても、ヒューマンスキル(対人関係能力)が重要である」ことは謳われており、昔からさまざまなところでヒューマンスキルの重要性は周知されています。
※カッツモデル:米国で1950年代に提唱されたマネジメント育成手法の一つ
私のブログ(3月5日)で書いた『心理的安全性』にもEQは大きく関係しています。
心の知能指数、「EQ(Emotional Intelligence Quotient)」とは、心の知能といわれる「EI(Emotional Intelligence)」を測定する指標です。
「心の知能」とは、自分や他人の感情を知り、コントロールし、成功を収める能力を指すものです。
なぜEQが研究され始めたのかというと、知性の尺度である知能指数(IQ)だけで人の知能を判断するのは適切ではないと多くの心理学者が考えたことがきっかけとなっています。
その先駆けが、心理学者のハワード・ガードナー氏で「人生で有用な知性は、広範囲かつ多岐にわたるもので、ある種の画一的な知性(IQ)に恵まれなければ人生で成功できないと考えるの間違いだ」と主張しました。
これによって、ではIQ以外の「知性」とは何か、ということに注目が集まったのです。
その後、EQを一気に有名にしたのが、ニューヨーク・タイムズの記者でかつ、心理学者のダニエル・ゴールマン氏の著書『EQ(こころの知能指数)』です。
現在、IQが人間の知能を測る上で有益な尺度ではあることに変わりはありませんが、より総合的に人間の能力を測る基準として「EQ」が取り入れられています。
ビジネスにおけるEQの立ち位置として、EQグローバルアライアンスの研究開発顧問でエール大学エールカレッジ学長を務めた、ピーター・サロベイ博士とニューハンプシャー大学教授のジョン・メイヤー博士によってEQを体系学的に立証した「EQ理論」があります。
彼らは心理学の立場から、ビジネス社会における成功の要因とは何か、に着目しました。
アメリカでEQの研究が進んだ理由の一つに、アメリカは能力主義の国であること、その人間の能力を測る重要な指標の一つとして学歴があります。
しかしビジネスにおける能力では、IQがある程度重要であるという認識は正しいものの、IQが高くてもビジネスで失敗する人がいる以上、IQが全てはないことも考察されたのです。
「IQ以外の、成功には別の能力が必要なのではないか」という仮説のもと、両博士はビジネスパーソンを対象にした調査研究を実施しました。
そして、ビジネスで成功した人は、ほぼ例外なく対人関係能力に優れている=社内外との関係をうまく調整することができる人材、という結果を得たのです。
これらの研究結果から、サロベイ、メイヤー両博士が提唱したのが「自己の感情をうまく管理・利用できることは、重要な一つの能力である」という「EQ理論」なのです。
1.自分を理解する「自己認識」
EQの最も大きなベースは「自分自身を理解すること」、とりわけ自分の感情を認識する能力だと言われています。
自分の感情を常に客観的に見ることが出来る能力は、その時の自分が何をどう感じているかを把握できることで、つまり自分を理解する上で絶対に必要なものなのです。
自分の感情に敏感な人は、自分の主張ややりたいことがよくわかっているため、進学や就職、結婚など、人生の重要なさまざまな岐路で自分の気持ちに忠実な選択を行うことができます。
自己認識は、自分を正しく評価できることや、自分に自信を持つことなどにつながる大事な要素なのです。
2.自分をコントロールする「自己管理」
人間を車に例えると、感情というのはガソリンやアクセルのようなもので、感情は人間が行動を起こす原動力です。
しかし、暴走した車が凶器になるように、感情も自分や他人を傷つける可能性があります。
感情は上手にコントロールして動機付けすることで大きな力になるのです。
3.他人を理解し良好な人間関係を築く「社会認識」
他人を理解するためには、ニーズの内容に的確な反応して対処することが大切です。
個人や組織の気持ちをくみ取る要素「共感」や、相手の話を聞いて問題を理解する要素「メンタライジング」は社会認識の領域でも重要です。
社会的な全体の価値観やルール、力関係を読み取る「組織感覚力」も必要になります。
個人や集団のニーズを読み取るだけでなく、ニーズの視点をとらえ良好な人間関係を築いていくことが、組織の中で生きていくうえで非常に重要なポイントです。
4.組織・集団を正しく掌握する「人間関係の管理」
EQ(心の知能指数)での最終的な目標は、社会において影響力を発揮できる人間になることだと言われています。
影響力を発揮するとは、他人を育てる「育成力」、チームワークや協調関係を築く「リーダーシップ」はもとより、交渉などで双方の「WIN-WIN」関係を築けるかどうかです。
個人では実現できないことも、組織の人間関係を上手く管理することによって実現が可能になるのです。
1.変化を受け入れる柔軟性
EQの高さを示す顕著な特徴の一つが、変化を恐れないことです。
EQが高い人たちは、人生は常に変化していることがわかっています。
変化を恐れると新しいことにチャレンジすることが難しくなります。
彼らは、自分の周りの変化を受け入れて、柔軟に対応することができます。
2.完璧を目指さない
世の中の大半のことは完璧にすることができません。
EQが高い人々は、完璧なものはないとわかっているため、躊躇せずに物事を前に進めることができます。
もし間違ったとしても、調整して着地点を見つけることができ、過ちから必要なことを学びとります。
3.仕事とプライベートのバランスが上手
EQが高い人たちは仕事とプライベートの時間をはっきりと分けています。
集中して仕事をするときと、週末のプライベートを切り離して考えることができるため、スケジュールもバランスがとれたものにできます。
4.共感力がある
EQの高い人は、他人への思いやりを常に持っています。
誰かを助けるためや寄り添うために自分の時間を割けることは、EQの重要な要素のひとつです。
5.集中力がある
EQが高い人たちは目の前の作業に集中することができます。
作業中に浮かんだ雑念や外的な雑音などで、気が散ってしまうことはほぼありません。
6.自分の強みと弱みを知っている
自分が不得意なものが何かをきちんとわかっていることも重要な要素です。
単に強みと弱みを理解しているだけでなく、さまざまな人との出会いを通して、弱みの要素さえプラスに転換する方法も知っています。
7.やる気を引き出すことができる
EQが高い人たちは、自発的に頑張ることができるタイプです。
報酬やご褒美のためではなく、自分自身のためにモチベーションを保つことができます。
8.過去のことで思い悩まない
彼らは過去の失敗やいやなことなどを思い出して落ち込んだりしません。
時間は、すべて現在から未来へ向けた可能性を考えることに費やします。
9.ポジティブなことに集中する
問題解決のために自分に何ができるか、という建設的なことに時間とエネルギーを注げるのがEQの高い人たちです。
ネガティブなことは切り捨て、ポジティブなことや自分がコントロールできることに意識を切り替えて集中します。
10.境界線をしっかり定める
EQが高い人たちはなんでも受け入れるように見せながらも、きっちりと「境界線」を引いています。
過剰な物事を抱えてストレスを受けないように、自分ができないことやネガティブなことには、はっきりと「NO」を提示して防いでいるのです。
まとめ
EQはいわゆる頭の良さである知能指数(IQ)と類似した概念ですが、IQが知能面だけの指数なのに対し、EQは感情面や情緒面における健全な人間関係を適切にこなせる人格的能力なので、人材採用や人材育成において幅広く活用できるものです。
この社会で生きていくためには大切なものは、やはり「人」対「人」です。
EQの重要性を認識して、他者の感情を敏感に認識する力を磨き、高いEQを目指しましょう。
EQ 2.0 (「心の知能指数」を高める66のテクニック)