成年後見人は、被後見人が自分自身で十分な判断が出来なくなった場合に代わりとして様々な権限を与えられますが、被後見人の代理としてなんでも自由にできるわけではありません。
今回3度目は、最後になりますが、成年後見人がしてはいけないこと、任命と解任について解説していきたいと思います。
成年後見制度においては、成年被後見人の財産管理および身上監護が主な業務範囲となっていますが、できないこともたくさんあります。
成年後見人ができないことをいくつか挙げてみます。
1.被後見人が日用品を購入する際の同意や、購入後の取り消しはできません
成年後見制度にある3つの理念のひとつ、本人の自己決定を尊重すべきという趣旨によって、生活上必要となる食料品などの日用品の購入については、成年後見人の同意なく本人の判断で行え、また、購入後の取り消しも成年後見人はできません。
2.身元保証人や身元引受人などになることはできません
老人ホームなどに入居する際、契約書には連帯保証人として身元保証人や身元引受人が必要なことがあります。
しかし、これらの役割を果たすことは、成年後見人の業務範囲ではありません。
成年後見人は、入居費用やサービス費用といった必要経費の支払いなどの財産管理、入居後の生活状況の確認など、身上監護で必要とされることだけを行います。
3.事実行為にかかわることはできません
事実行為とは、食事や入浴の介助、部屋の掃除、通院時の付き添いなどの行為のことです。
成年後見人ができるのは、契約などにかかわる「法律行為」であって、事実行為については業務の範囲に含まれません。
仮に、被後見人に対して介護など事実行為が必要になったときは、介護保険適用の介護サービスを利用し、ホームヘルパーなどに支援をお願いする必要があります。
私の担当する被後見人も独居ですが、デイサービススタッフやヘルパーさんによる介護サービスを受けており、私自身が実際の介護・介助行為をすることはありません。
成年後見人の業務のひとつである身上監護で訪問した際に、ちょうど食事をとられた直後で、服薬のお手伝いをすることなどがたまにあるくらいです。
4.医療行為に対する同意はできません
被後見人に対しての医療行為をどうするかの判断は、成年後見人の業務の範囲に含まれません。
親族がいるときは親族に判断をゆだね、いないときは医師に任せるというのが原則です。例えば、命にかかわる手術などを同意する書面に被後見人はサインすることはできません。
医師側は手術行為の責任として成年後見人にその役目を負ってもらおうとしますが、親族または医師に決定してもらうことが大切です。
5.居住場所を指定することはできません
成年後見人は、本人に代わって老人ホームの入退去にかかわる契約を行う権限を持ちますが3つの理念のひとつ「自己決定を尊重する」という趣旨から、入退去に関する「判断」については本人の同意がない限り行うことはできませんし、強制することもできません。そのため、「このまま自宅でひとり暮らしを続けるのは難しく、老人ホームへの入居が必要」という状態になったときでも、成年後見人が自分だけの判断で入居を決めるということはできないのです。
状況によっては、本人の同意を得られるように説得することも必要になります。
ただ、認知症などにより本人の判断能力が十分でないときもあり、その場合は被後見人の家族や親族が後見人に助言をするなど、その都度適切な対応が求められるのです。
私の場合は、被後見人に親族がおられないため、現在の独居が難しくなり施設入居の必要が出てきた場合判断は、本人の意向を聞きながら、地域包括支援センターやケアマネージャー、ヘルパーさんなどと話し合いを重ねて決定することになります。
特に、後見人が第三者ではなく親族の場合に起こることが多いのですが、これは成年後見制度の大きな課題となっています。
最高裁判所が行った調査によると、後見人による横領などの被害総額は、2011〜2015年で約213億円にも上ることが明らかにされており、1年間の被害額でみると、平均約43億円にもなります。
ほとんどは親族後見人によるもので、被害額全体の約94%、年間約40億円を占めています。
一方、弁護士など専門職による不正は全体の6%、被害額は年間約2億5,000万円です。
1件あたりの被害額は、親族後見人によって生じた被害が平均約700万円、専門職だと平均約1,200万円になっています。
親族の後見人の場合、トラブルにつながる人の25%が、自分の財産と後見を任されている本人の財産を区別するという認識がない人となっています。
成年後見人に就任し、最初はしっかり管理をしていても、だんだんその管理している財産が自分のもののように思えてきて、管理がずさんになっていくことはままあることで、認識が日常的になれば、財産を自分のために使ってしまう「使い込み」のケースが生じてしまいます。
特に親子関係のような近い関係だと、もともとその親の金で自分は育てられてきたという経緯もあるだけに、親の財産が「別の人のものである」という意識が薄いので、財産を自由にしてしまおうという意識につながってしまうのだと推測できます。
しかし親のお金であろうと、それを自分のものとして使い込んでしまうのは、成年後見人としてやってはいけないことなのはもちろん、親の財産が子にわたるというのは、贈与もしくは相続ということであり、この場合は本来、“贈与”にあたるお金を勝手に使ってしまったということになります。
本来、贈与や相続の対象となる財産となれば、もしほかに相続人がいる場合、後から大問題になることも大いに考えられます。
なかにはさらに悪質なケースとして、最初から後見する方の財産を目的に、親族が成年後見人を名乗り出るというケースまででてくる場合もあります。
本来、被後見人のために使われるべき財産を、自分のために使ってしまうわけですから、被後見人はその人らしい生活を送ることができない状況になっていきます。
これは高齢者虐待そのものであり、受け取り方次第では、窃盗や詐欺と判断されます。
こういった親族に成年後見人を任せることによって起こる「財産の使い込み」や「相続トラブル」などを避けるためのひとつの方法として挙げられるのが、後見人を弁護士や司法書士など第三者に任せるという考え方です。
2000年から始まった成年後見人制度を利用して、後見人を認定する際、親族以外の第三者に任せる人の割合は70パーセントを占めており、親族が成年後見人になる場合よりも割合としては多くなっています。
第三者が後見人になると、1年ごとに財産の用途などの記録をつけ、裁判所に報告をする義務が発生します。
親族の場合は、この労力のかかる事務作業を無料で行うことになるので「ちょっとくらい使ってもいいか…」という気分になってしまうのかもしれません。
後見人を誰に選任するにしても、自分の大切な財産の管理を人に任せることに抵抗を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
第三者に成年後見人を任せたとしても、100パーセント信頼はできない…と不安を感じる方もおられるでしょうが、その場合「後見制度支援信託」を利用してみてはいかがでしょうか?
家庭裁判所が作成する指示書に基づき、月々の生活費や介護施設等への支払いなど、必要に応じて定期的に一定額が後見人の管理する預貯金口座に振り込まれる制度が「後見制度支援信託」です。
後見人が管理する預貯金口座にあるお金以外は、信託銀行などが家庭裁判所の指示書に基づいて管理するこの制度を利用することで、安心して財産を管理することができます。
後見制度支援信託の利用者数(未成年被後見人含む)は、制度が始まった2012年は98人のみでしたが、2015年には6,563人にまで急増しました。
そして利用者が増えるにつれて信託金の総額も増え、2012年当時は約42億円だったのに対し、2015年には約2,100億円にまで増加しています。
一方、信託金の平均額は、2012年では約4,300万円でしたが、2015年では26%減となる約3,200万円まで減少しました。
これは、後見制度支援信託の利用対象が、より本人の保有資産が少ない方々へと拡大していることを意味しています。
このように後見制度支援信託が広まっているのは、後見人による不祥事の防止のため、家庭裁判所が積極的に利用を進めているからです。
お金は生活を守るために必要であると同時に、トラブルにもつながりかねない存在だからこそ、しっかりと制度のいい点・悪い点を把握して、大切な人との関係と自分の財産を壊さないよう、使いこなしていきましょう。
親族に任せる場合
親族に後見人を任せる場合には、以下のことに注意しましょう。
1.コミュニケーションをとる機会を持つ
多くの不正は、親族と後見人のコミュニケーションが取れていない場合に起こります。
こうした事態を防ぐためにも、後見人となった人物と可能な限りコミュニケーションをとり、不正を行わせないようにしましょう。
2.「本人の利益」を守るために
後見人となった人物は、あくまでも被後見人の方の利益のために働く必要があります。
例えば、将来的に相続が発生することを見越して贈与を行うなどの行為は、本人の財産に打撃を与えるため禁じられています。
3.家族が後見人等の活動記録を見られないことがある
後見人は、被後見人の方の財産目録や、後見などに関する記録などの資料を親族に公開する義務はなく、場合によっては閲覧させてくれない場合もあります。
確認したい場合は、家庭裁判所に閲覧を申請する必要があります。
第三者に後見人などを任せる場合
親族に後見人を任せる場合には、以下のことに注意しておく必要があります。
1.財産を使い込むことは「業務上横領」であることを自覚する
後見人になった場合、被後見人が家族であったとしても、その財産を自分のために使うことは業務上横領となります。
後見人は家庭裁判所に選ばれた公的な任務であるということをしっかり自覚しないといけません。
2.後見人などに就任する前に親族で方針などを話し合っておく
後見人以外の親族の方が、後見人は被後見人の財産を自由に使えるという誤解をする場合があり、それが原因でトラブルにつながることもあります。
後見人となる前に、親族内でしっかりと話し合い、理解を深めておきましょう。
3.後見人になることを理由に財産の贈与や貸付、相続をしない
上にも通じる話ではありますが、被後見人の財産の贈与や貸付などを行わないようにする必要があります。
その行為に対して本人の意思が強い場合は、事前に家庭裁判所に相談をしておくことが必要となります。
後見人を解任する方法
成年後見人は、後見業務に支障がでないよう、基本的に理由なしで解任することはできないようになっています。
しかし、「不正な行為があった場合」「著しい不行跡」「後見の任務に適しない事由」といった、法で定められた一定の理由があれば解任することが可能です。
解任するためには、申立権者である被後見人、被後見人の家族、後見監督人、検察官のいずれかが、家庭裁判所に対して、成年後見人解任の申立を行います。
解任申立によって現在の成年後見人が解任された後は、家庭裁判所に新たな後見人を選んでもらうことになります。
解任するには、以下のような理由が必要です。
1.不正行為が認められた場合
「不正な行為があった場合」とは、被後見人の財産を成年後見人となった人間が使い込むなどの違法な行為が発覚した場合です。
こうした違法なものを含めた不正な行為を後見人が行った場合は解任する理由になります。
2.著しい不行跡があった場合
「著しい不行跡」とは、喧嘩を繰り返したり、素行が悪かったりするなど、そもそも成年後見人として品位に欠け、他人の財産を管理するべき人物ではないと判断されるような場合です。
こうした適性の欠如も解任理由となります。
3.後見の任務に適しない事由
「後見の任務に適しない事由」とは、上記のほかに、後見業務を怠り、家庭裁判所の命令を聞かない、あるいは被後見人との関係が悪化してしまっている、後見人となった人物が罪を犯して逮捕されたなど、後見人としての業務に支障をきたすとみなされた場合です。
まとめ
一口に後見人と言ってもさまざまな後見人がある事がわかっていただけたと思います。
人生においては後見人にも被後見人にもなる可能性があります。
将来どちらの立場になってもよいように、成年後見人制度の知識を得て自分と周囲が人生を豊かに過ごしていくための参考になればと思います。