前回は、成年後見制度とはどんな制度なのか、その成り立ちや酒類についてお話ししましたが、今回は引き続き具体的に成年後見人を選定するメリットやデメリット、成年後見人を受任した後の仕事内容などについて解説していきたいと思います。
それぞれの特徴は以下の表のようになります。
成年後見制度を利用している場合は、遺産や相続とは異なり、本人が生きて生活をしている状況だということです。
できれば自分自身が信頼のおける方にお願いしたいと思うのが、一般的な感覚ではないかと思われます。
以前は、公務員や医師といった資格がある場合、法定後見人になることができない「欠格条項」がありましたが、2019年6月に削除法が成立したため、法定後見人の大きなデメリットが1つ減ったと言えるでしょう。
介護に関しての考え方は人それぞれで、生涯在宅介護を受けながら自宅で生活したいと望まれる方もいれば、終活として自宅や不要な家財道具などを整理し、老人ホームへの入居を希望する方もいます。
個々の希望を叶えるためには、やはり自分自身で判断が十分にできる時に任意後見人を選んでどういう老後の生活をおくりたいかを伝え、自分の資産でどこまで希望が叶うのかを確認しておくことが必要です。
しかし一方で、誰でも成年後見人になれるわけではなく、民法847条で「後見人の欠格事由」として、なれない人の条件が明記されています。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人、または補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をした者、ならびにその配偶者および直系血族
五 行方の知れない者
民法847条より引用
また、近年では成年後見人が関係する事件の申立件数が、合計で約35,000件を超えており、特に、親族が成年後見人になった場合のトラブルが後を絶たないため、第三者の弁護士や司法書士などの専門職が成年後見人として選出されるケースが増えたようです。
2000年から始まった成年後見制度の利用者数ですが、ここ数年は年間1万人以上のペースで増加し続けています。
男女比率は、男性が約4割、女性が約6割で、男女とも80歳以上の利用者が最も多い割合になっています。
また、必要とされる契約などを結んだり、不必要な契約を解除する権限も持っています。
受任後から発生する成年後見人の仕事とはどのようなものなのか、受任から順を追ってより詳しく解説していきましょう。
私自身、受任して2年8ヶ月経ちましたが、意外に書類仕事が多い気がします。
定期的に被後見人の状況を家庭裁判所に報告する義務があるので、さもありなんなのですが。
1.成年後見人が確定するまで
まず成年後見人が確定するまでのプロセスとして、最初に成年後見人の申し立てを許されている本人、配偶者、親族(四親等内)、そして場合によっては市区町村長が家庭裁判所に申し立てを行います。
私の場合は、1年間の成年後見人育成講座を受講後、成年後見人として大阪市に登録をしていたので、大阪市長を申立人として、大阪市成年後見人センターから受任するかどうかのお話をいただきました。
審判のうえで後見人が選ばれた後、2週間の「告知」という期間が設定されます。
この期間は、もし選任内容に異議があれば申し立てを行えるという期間で、まだ正式な後見人が選定されているわけではありません。
期間中に異議がなければ、成年後見人が確定することになり、審判が確定したら2週間ほどで家庭裁判所から法務局に通知があり、正式に成年後見人として登録されます。
その後、家庭裁判所から成年後見人に対して、「審判書」と成年後見人が行う職務が記された書類や、財産目録の記入用紙などが送付され、成年後見人はそれらに基づき職務を行います。
私も受任承諾後に大阪家庭裁判所に赴いて、被後見人さんのファイルを渡され成年後見人としての職務が始まりました。
任意後見と法廷後見では、申し立てから登記ファイルへの記録までかかる時間が違います。 法定後見の場合で通常2〜6ヵ月程度、任意後見の場合でおおむね1ヵ月程度かかるとみておくとよいでしょう。
2.「登記事項証明書」の取得
成年後見人は、金融機関に届け出などで提示する必要があるため、後見人としての身分証明書とも言える本人以外は取得できない書類「登記事項証明書」が必須です。
1通取得につき550円かかるので、各機関に提出・提示する必要がある場合は写しを使用します。
全国の法務局、地方法務局で、本人確認書類や収入印紙などを提出することで受け取れます。
3.金融機関・行政機関への届け出
成年後見人になると、自らが成年後見人であることを銀行や証券会社をはじめ、年金事務所や税務署に届け出る必要があり、送付されてくる書類は、本人でなく後見人の住所に送るように依頼ができます。
私の場合も(私が受任している被後見人は認知症のため自己判断が十分にできないのですが)現在は被後見人の郵送物をすべて私宛に送られてくるようにすることで、被後見人である本人が書類を間違って捨ててしまったり、後見人が重要な通知について知らないままでいる、といったことを防いでいます。
4.報酬の申立て
成年後見人が報酬を得るためには、家庭裁判所で「報酬付与」を申し立てる必要があります。
私が登録している大阪市の市民後見人は、後見人として活動した実費のみ受け取りますが報酬は発生しません。
5.裁判所への報告業務
後見人は、被後見人が滞りなく生活を送っていくために、被後見人の年間および月間の収入と支出額を把握・調査し、「年間収支予定表」と「財産目録」を作り、その証拠となる通帳、あるいは取引残高報告書などのコピーを添付したうえで、家庭裁判所に提出します。
収入は、年金収入や不動産収入のほか、株式の配当金や預貯金利息を、預金通帳や領収証などを参考に調査します。
調査対象は、預貯金通帳と残高証明書の内容です。
これらについては、各金融機関に届け出たうえで、成年後見人が正式に就任した日を基準として、残高証明書を発行してもらいます。
もし紛失した通帳などがあれば、再発行の手続きも後見人が行います。
また、後見人は、家庭裁判所に財産目録を提出するために、本人の財産調査を行わなければなりません。
不動産については、後見人自らが法務局にて登記簿謄本を取得し、権利証に記載されている内容と照合して調査をします。
そのほか、株式や有価証券がある場合は、証券会社に届け出を行い、取引照会をして保有株式などの内容を調査します。
被後見人が車を所有している場合は、自動車検査証の内容も調査します。
被後見人の持っている財産と収入・支出の管理を成年後見人は担っています。
提出には期限があり、初回報告は審判から2ヵ月以内というのが通例です。
私は大阪市市民後見人なので、半年ごとに家庭裁判所への報告書類提出と、間の3か月ごとに、成年後見人センターへの報告義務があります。
6.身上監護事務
「身上監護」とは、自宅を訪問し、本人の生活状況に問題がないか「見守り」をすることです。
私の担当する被後見人は独居されているので、基本的に週1回おうちを訪問しています。
認知症を抱えておられますが、進行は緩やかでご本人が今の生活を続けることを望まれているため、独居が難しくなるまではこのままのサポートを続けていきたいと考えています。
被後見人には私一人ではなく、大家さん、地域包括センター、ケアマネージャー、ヘルパーさんなど様々な方の支えがあります。
先々施設に入居する方が良いと判断されれば、施設を探したうえで入退去手続きを行わなければなりませんが、市民後見人は被後見人の生涯にわたってサポートすることが基本なので、認知症が進行して独居が難しくなり、たとえこの先どこに移られてもサポートする姿勢は変わりません。
仮に新しく移られた施設に、被後見人の不利益となる状況が起こったら、改善要求を行っていくことになります。
被後見人は介護保険の要介護認定を受けていることも多いと思います。
介護サービスを利用する際に必要な手続きや介護サービス事業者との契約も成年後見人の仕事です。
私も定期的にサービス内容が契約通りに提供されているか施設さんと確認を行っています。
被後見人に必要な情報収集を細かく行い、新しく契約を結ぶ場合は本人に代わって成年後見人が担います。
7.被後見人が行った法律行為の取り消し
これは通常業務ではありませんが、本人が独断で行った法律行為を取り消すことも成年後見人が行うべき仕事のひとつです。
なぜなら成年後見人は、日常生活の買い物などの行為を除き、判断能力を欠いているがゆえに行った被後見人の行為を取り消せる権限を持っているからです。
例えば、悪徳業者が被後見人宅を訪れ、判断力が不十分なのを良いことに必要のない高価な商品を購入する契約を結んだとき、成年後見人はそのような行為があったことを知った時点で、その契約行為をなかったことにできます。
実際の手順としては、成年後見人の名のもとで業者に対し代金の返還と商品の回収を要求します。
話を受け付けてもらえないときは、内容証明を送付します。
無視される可能性も高いのですが、諦めずに徹底的に戦う姿勢を見せることが大切になります。
同様の悪徳業者によって必要のないものを頻繁に買わされると大変なので、自宅の玄関先に、成年後見人の属している団体の連絡先などを貼っておくと、抑止策として悪徳業者を寄せ付けない効果が期待できます。
まとめ
成年後見人の最も主要な仕事は、被後見人の財産を管理することです。
通帳記入を通しての入出金のチェックや不動産の管理のほか、住居を管理して必要に応じて修繕やリフォームを行うことなども成年後見人に任されています。
定期的に住居を訪問し、被後見人の健康状態や生活状況を把握することも必要です。
しかしながら成年後見人は、被後見人に対して何でもできるわけではありません。
成年後見人がしてはいけないことを次回は解説したいと思います。