老人ホームや介護施設で働いている方は、高齢者とのコミュニケーションが必須ですが、年齢の若い方は悩まれることが多いのではないかと思います。
一口に高齢者といっても、その方の性格や聴覚のコンディション、認知機能など、その身体の状態はさまざまです。
今回は、その方の状態に合わせて、ご高齢の方とのコミュニケーションが楽しくなるコツをご紹介したいと思います。
1.話し方のコツ
大きい声で話しているのに、何度も聞き返されたり、反応がなかったり。
そんな体験をすると、どのくらいこちらの話が通じているのか不安になってしまいますが、人は60代以上になると、若いときと比べて高い周波数の音が聞こえにくくなります。
蚊の羽音や体温計のピピッという電子音などは、モスキート音と言われ聞こえにくい音の代表格です。
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モスキート音チェック
あなたが若い女性であるならば、「大きな声で話しているのに内容がなぜか伝わらない」ということが起こります。
大きな声で話しかけても声が高めであれば高齢者は聞き取りにくいのです。
しかし全部の音が聞こえないわけではないので、聞こえていないと思いさらに耳元で大声を出されたりすると、当たり前ですが高齢者はとても不快に感じます。
ちゃんと聞こえるように話すには、やみくもに大声を出すのではなく、意識した低めの声ではっきりと話すこと。
一度にたくさんの情報を詰め込まず、言葉を区切って話すと理解してもらいやすくなります。
また、なるべく正面から話しかけることを心がけてください。
相手がベッドや車いすの場合などは、体勢を下げて口の動きがよく見えるように目線を合わせることで聞き取りやすくなります。
2.聞き手としてのコツ
高齢になると短期記憶を失いやすくなり、話していると、同じ人に同じ話を何度も繰り返すことがよくあります。
「この話はこの人にしたな」という記憶が、抜け落ちてしまうからです。
一方、子供の頃や若い頃の長期的な記憶はずっと残っています。
高齢者が昔の話ばかり繰り返しするというのはそう言う理由なのです。
何回も聞いた話だと、つい「その話はもう聞いた」と指摘してしまいそうになりますが、高齢者とのコミュニケーションを円滑にするために、そこはグッと我慢しましょう。
いつも初めて聞く話であるように演技ができれば最高です。
高齢者はよく聞いてくれる相手に対しては口が滑らかになります。
自分の感情はさておいて、まずは「よき聞き手」に徹することを優先しましょう。
こういった相手の話に真摯に耳を傾ける「傾聴」が、高齢者と会話するときの基本的なスタンスとなります。
相手の話を遮って自分の話をしないことや、批判や批評、否定をしない。
相手に起こったことを自分のことに置き換えて共感しながら聞けば、事前と熱心な相づちや「それでその先どうなったんですか?」といった、次の会話を促す質問が自然に出てくると思います。
ただ、あなたがまったく興味が持てない話題なのにいかにも興味があるふりをしていると、そうした嘘は必ず相手に伝わってしまいます。
信頼関係を築くためには、自分自身の感情には嘘をつかず「あまり詳しく知らない」「よくわからないので教えてほしい」と正直に話すようにしましょう。
高齢者とじっくり話して信頼関係を築きたいのであれば、二人で散歩に出かけるなど、ゆっくり話せる時間をとるのがおすすめ。
おおらかな気持ちで余裕をもって相手と話すことも傾聴を成功させるコツのひとつです。
3.ネガティブな話が多い人へのコツ
いくら「傾聴」が良いと言われても、「早くお迎えが来てほしい」「私なんて邪魔な存在」とネガティブな話ばかりする人との会話は盛り上げづらいですよね。
そんなときは、その人が若いときにやっていた仕事のこと、趣味や得意なことに話題を変えると良いと思います。
自分が達成してきたこと、やり遂げたことを話題にすることで、生き生き自信をもって話してもらえます。
その会話の中で、分からないことを質問したり、教えてもらうようにしたりすると、相手の気力もわいてくるのではないでしょうか。
ネガティブな発言を繰り返す人は、自尊心が失われている状態です。
過去に達成したこと得意なことを話題にして、たくさん充実感を感じてもらい、自尊心を取り戻してもらいましょう。
充実感を感じてもらうために、その人ができる用事を頼むのもおすすめです。
鉢植えの水やり、洗濯物をたたむ、庭の草むしり、食器の配膳の手伝いなど、ちょっとしたことですが、決まった時間に体を動かすことで、生活にメリハリがつき張りが出てきます。
人に関心を持ってもらっている、人の役に立っていると感じることは、人間が本来持っている感情で、QOL(生活の質)を高めるためになくてはならないものなのです。
4.認知症の方と接するときのコツ
認知症が進行している場合、現実とは全く違うことを言われることがありますが、その時に事実と違うことを指摘したり否定するのは、相手の世界を壊してしまうことになります。
そういう時は、自分が相手の住んでいる世界に遊びに行く感覚でコミュニケーションをとってみましょう。
たとえば「家に帰らせて!」と徘徊してしまう認知症の高齢者に「ここがあなたの家です」と言い聞かせても問題行動は収まりません。
相手の世界ではたしかに家ではないのですから、まずはそれを受け入れること。
心細さや不安を感じている気持ちに寄り添い、「後で家に送っていきますから、車が来るまで待っていましょう」「食事をしながらゆっくり休んで帰りましょう」「お茶が入りましたよ」などとやんわり話題をそらし、気分を変えてもらいましょう。
認知症の場合は、その人にとって一番アクティブに活動していた時代に戻ることもあります。
そんなときも相手の世界を否定せず、「先生、お元気ですか」「社長、大事な会議があります」と話を合わせましょう。
不安な気持ちが落ち着き、介護がスムーズになることがあります。
事故や命に関わるような危険性がある場合は、別途対策を講じなければなりませんが、そうでない場合は相手の世界を一旦受け入れ、相手が安心するように上手に嘘をついたり話を合わせることも介護のテクニックのひとつです。
認知症の人は、自分が自分でなくなってしまう不安やとまどい、怒りや焦りといつも戦っています。
また、起こったことをすぐ忘れてしまう一方、喜怒哀楽、快・不快といった感情はしっかり感じています。
一挙一動に振り回されることなく、まず相手に安心してもらうにはどうすればよいのかを考えながら、認知症高齢者と接するようにしましょう。
5.言葉以外のコツ
言葉より多くのことを伝えるのが「態度」です。
アメリカの心理学者・メラビアンの実験では、言葉によって伝わる感情はわずか7%にすぎず、残りの93%が声の調子や視線、表情、しぐさといった、非言語コミュニケーションによって伝わっているのだそう。
高齢者が話をはじめたら、心持ち前のめりになって、話に興味があることを伝えます。
また、会話中は相手の言葉をしっかり聞いているよ、という合図にあたたかいまなざしを向けるようにしましょう。
相手の気持ちが落ち込んでいるろ感じたら、背中をさすってあげたり、手を握ってあげたりスキンシップをとるのも良いことです。
こうした態度は、形だけを取り繕っていてはなかなかできるものではありません。
心から高齢者とコミュニケーションをとりたい、話を聞くことが楽しいと思うことが、非言語コミュニケーションを上手に使えるようになる一番の近道です。
「人から認められたい」という欲は、老若男女年齢問わず、誰の心のなかにも存在します。
その人の声に真摯に耳を傾けることで、その欲求を満たし信頼関係を築くことができます。
高齢になると頑固で怒りっぽくなったりするし、コミュニケーションがとりづらいのでは、とそんな風に思い込んでいるとしたら、考え方を改めたほうがよいかも。
話を聞いてくれない、何も話してくれない、気難しいといった印象を若い人が受けるのは、単純に聞こえていないないだけ、発語がしにくいから黙っているだけ、といった老化現象の現れである可能性が高いのです。
ご紹介したポイントを押さえながら会話していけば、多くの人生経験を積んだお年寄りとおしゃべりすることは、私たちにとってとても刺激的で味わい深く、学ぶところがあるはずです。
まとめ
歳をとるとどんな人でも機能が衰えていきます。
高齢者と楽しくコミュニケーションをとっている人を注意して観察すれば、共通したところがあるはず。
低めの声ではっきり、目を見て、ジェスチャーも交えて、きっと5つのコツを自然に使っていると思いますよ。
高齢者とコミュニケーションするときには、これらのコツを少し意識しながら、ぜひ会話を楽しんください。