しかしもともと「漢方」は、自然の力を体内に取り入れて、生命力を高めるというシンプルなもの。
特に「漢方」を意識しなくても私たちが日常で実践していることも多く、疲れたと感じた時にビタミンCやクエン酸を含んだ酸っぱいものを食べる、風邪をひいたときに卵酒を飲む、というのも実は漢方療法。
自然界の力を借りて人間が本来もっている自然治癒力や自己回復力を目覚めさせ、根本から身体を治していくのが漢方の考え方です。
漢方の知恵に基づいて、おうちでも気楽に「今日から」始めてみませんか。

「病院に行って検査をしても特に異常はないと言われる」
身体の調子が悪く、自覚症状は沢山あるのに検査をしても特定の原因が見つからない状態を「不定愁訴」と呼びます。
そんな不定愁訴に悩んでいる方が漢方薬で回復しないだろうか、と考えることは多いようです。
そもそも漢方とは、中国の医学古典などに基づいて発展した日本独自の伝統医学で、漢方薬はこれらの古典に記載された生薬(しょうやく)を配合したものです。
生薬とは用いる条件も細かく定められており、治療効果のある医薬品を意味します。
日本において漢方薬の多くはエキス製剤として、健康保険が適用される医療用漢方製剤として用いられています。
漢方薬といえば風邪薬や胃腸薬といった家庭の常備薬としてもよく使われていますが、どんな症状にも効く魔法の薬ではありません。
ひとり一人の病状や体質に合わせた処方が必要で、即効性タイプの漢方薬と、継続を必要とし飲み続けることで効いてくるタイプの漢方薬など、定められた使用方法があります。
また、効用があれば副作用もありますので、医師の診断のもとでの服用が推奨されています。
漢方薬と混同されやすいのが、医療の専門家ではない庶民の間に伝承され使われてきた薬草です。
胃弱・食欲不振にセンブリ、下痢・腹痛にゲンノショウコ、解毒・解熱にユキノシタ、火傷・切り傷にアロエ、腫物にドクダミ等々。
これらは「伝承薬」とよばれ、必ずしも科学的な証明ができていません。
現在は薬局で市販薬が容易に購入でき、また健康保険制度により医療へのアクセスもよいため、日本では家庭内以外で伝承薬を使う機会はほとんどないと言えるでしょう。
しかし長い間受け継がれてきた伝承薬はそれなりに用いる理由があると思いますので、医学的に詳細が解明されていないとはいえ効能がまったくなく、まじないのようなものと決めつけることはできないのではないでしょうか。

漢方では、病気の原因だけでなくその人の体質や心までを見極めて漢方薬を処方します。
西洋医学の科学的検査ではわかりにくい、身体と心のバランスや漢方薬を体の中に入れた時の作用について考えるのが特徴で、これらがうまく巡っている状態を「気・血・水」が整っているとし、健康が維持されると考えられています。
これらが不足したり、滞ったり、偏ったりしたときに、不調や病気、障害が起きてくると捉えられるのです。
漢方の考え方では「気・血・水」3つの状態を診て、どこに問題があるのかを探っていきます。
・「気(き)」
元気、気力、気合いなど「気(き)」は目に見えない身体のさまざまな働きを表します。
「気(き)」の働きが不調になると、
気虚(ききょ)=無気力、疲労、だるさ、食欲不振
気滞(きたい)=頭重、喉がつまる、息苦しさ、おなかが張る
気逆(きぎゃく)=のぼせ、動悸、発汗、不安感
などが見られます。
・「血(けつ)」
「血(けつ)」は全身をめぐる栄養やホルモンなどのバランスを表します。
「血(けつ)」の働きが不調になると、
血(おけつ)=眼の周りの隈、唇の色が赤黒い、便秘
血虚(けっきょ)=貧血、乾燥肌、めまい、脱毛
などが見られます。
・「水(すい)」
「水(すい)」は血液以外の体液、尿、唾液、リンパ液、涙、胃液、肌の潤いなどの水分をまとめて表します。
「水(すい)」の働きが不調になると、
水毒(すいどく)・水滞(すいたい)=むくみ、めまい、頭痛、下痢、排尿異常
などが見られます。
こうした不調の原因の組み合わせに加え、漢方医学では望診(ぼうしん)、聞診(ぶんしん)、問診(もんしん)、切診(せっしん)の4つの診断方法=四診(ししん)を用います。
・「望診(ぼうしん)」
顔色・舌の色・肌のつや・肉付きなどを目で見て診察する方法。
・「聞診(ぶんしん)」
患者の口臭・体臭・分泌物の臭気をかいだり、声や話し方、呼吸音、腹部の異常音などを聞いて診察する方法。
・「問診(もんしん)」
患者を診察する際、本人が気づいていない心の動きやさまざまな症状の背景にあるもの、本人や家族の病歴、現在の病気の経過・状況などを診て診察する方法。
・「切診(せっしん)」
手や指で患者の身体に触って診察する方法。
漢方処方に際しては、上記の診断を基に患者一人ひとりの回復力を利用します。
漢方薬で患者自身の回復力がうまく働く環境を整えてあげるのです。
そして、漢方薬を服用して不調が改善されてきたときこそ注意が必要です。
その漢方薬が効いたということは、それが足りていなかった証拠なので、治ってきた、良かったで終わらせず、自分の不調になりやすい体質や過労や睡眠不足、食生活といった生活習慣を見直すきっかけにしてください。

「医食同源」という言葉は、健康の増進のためには医療も食事も本質的に同じで、ともに重要とする考え方からきていますが、やはり日頃の食事にも生薬の元を取り入れることをお勧めします。
漢方は、高価だったり簡単には手に入らないものと思われがちですが、意外にも日常でおなじみの食材も使われています。
心も身体も冷えてしまう冬におすすめの、身体を温めたり胃腸を整えたりする成分が含まれているものを中心にご紹介しましょう。
咳が出る風邪は、焼きいちごで鎮める
むくみには利尿作用の高い小豆汁を
口内炎はキウイフルーツで熱をとる
手足の冷えは羊肉でポカポカに
スマホの疲れ目はクコの実いりの杏仁豆腐
体力低下の改善は自然薯、長芋とろろご飯
月経不順にベニバナ茶
血行促進、発汗作用にシナモンティー
心と身体の安定にナツメの入ったサムゲタン
消化不良、食欲不振にはお吸い物に柚子皮散らして
弱った胃腸にクローブ入りカレーを
料理にかかせない漢方生姜は、身体を温め、吐き気や食欲不振を改善し、解熱や咳止めに効果

まとめ
インスタントコーヒーの粉を口に含んでお湯で飲み流す人がいないように、漢方薬は本来「煎じ薬」であるため、フリーズドライのエキス剤もお湯に説いて飲むのが推奨されています。
また、お湯にといた漢方薬の湯気を鼻からゆっくり吸い込んだり、温かいカップを手のひらで包んだり、落ち着いた気持ちで過ごす時間をつくるのも効果的です。
漢方薬の効用と同時にこうしたゆったりとした時間を持つことが、身体が本来持っている回復力を高めてくれます。
寒い冬は体温を保つために、身体は夏よりもエネルギーをより多く消費するそう。
身体のなかでエネルギーの循環と回復力がはたらきやすいように、温まる食材と睡眠時間をたっぷりとって、健康的に冬を乗り越えていきましょう。
再春館製薬所が教える おうち漢方