親しみを込めたつもりがあまりにもなれなれしすぎたり、反対に敬語ばかりをつかっていると他人行儀な対応になってしまったり。
しかし今までの生活で慣れてしまったコミュニケーション方法を変えるのはなかなか大変なもの。
家族の介護でも、デイサービスやショートステイなどで、家族以外の被介護者さんとお話しすることもあると思います。
しっかりとした接遇マナーを身につければ、被介護者うやそのご家族、施設のスタッフとのコミュニケーションにおいても大いに役立ち、きっとあなたを助けてくれるはずです。
今回は介護のシーン別の言葉遣いについてお話ししたいと思います。
まずは、目上の人に、使ってはいけない言葉遣いを確認しましょう。
1.赤ちゃん言葉や、子ども扱いした表現
小さな子どもをあやすような口調で「よくできたね〜」「お利口さんね」「(簡単な質問なのに)分かるかなぁ?」などと言うことは慎むようにしましょう。
身体機能や認知機能が弱っていても、年配の方は私たちより経験豊かな人生の先輩です。
年下の人たちから子ども扱いされることは、決して気分の良いことではありません。
日常生活でお世話をする側としては、つい、できないことに目を向けてしまいがちです。
そのため、上手くできたらほめてあげたい、勇気づけたいという気持ちから、そのような口調が出てくることもあるかもしれませんが、伝えるのなら「お上手ですね」「努力家の〇〇さんには、いつも頭が下がります」と、相手に敬意を表す言葉づかいでほめるように心がけてください。
2.タメ口や命令口調
「ほら、できたじゃん」「もぉー、何やってんの」「早く、早く!」「なんで出来ないの?」。
忙しい日々のなかでは、つい出てしまいがちですね。
悪気なく親しい関係だから許される、と軽い気持ちで口にしていることが多いのではないでしょうか。
しかし同じ対等なら気にならない言葉でも、被介護の立場の方はどうしてもお世話になっている、弱い立場側に居る意識が強いので、何気ない言葉が胸に刺さってしまうことも少なくありません。
ご本人が次第に失敗することやできないことが増えていることを自覚しているだけに心を痛めてしまうのです。
出来ないことよりも出来ることや得意なことに目を向けて、視点を変えてコミュニケーションをはかると良いと思います。
3.流行り言葉(若者言葉)や略語
「チョーすごい」「まじヤバい!(ほめているつもり)」「それ、アリですね」。
高齢者には聞きなれない表現に、ほとんどの方は「??」となってしまうでしょう。
せっかく相手に元気になってほしい、褒めてあげたいと思って発した言葉でも、伝わらなければ意味がありません。
自分の気持ちを伝えることは、相手に伝わる表現が必要です。
相手の立場になって、その方が分かる言葉遣いを選ぶようにしましょう。
1.朝のあいさつ
「おはようございます!朝ご飯ができましたよ」
「そろそろお目覚めですか?今日はいいお天気ですね」
「おはようございます。よく眠れましたか?」
一日の始まりは、気分よく迎えたいもの。
元気な明るい声のトーンであいさつしましょう。
高齢の方にはまだ眠っていたいというより「朝だ、さあ、起きなくては」と思ってもらうことが大切です。
楽しく充実した一日を予感させるように、朝ごはんやレクリエーションなどの話題をつけ加えるなど工夫が必要です。
2.食事のとき
「今日の献立は〇〇ですよ。この煮物は、味がしみていて美味しそうですね」
「作った人が喜びますから、もう少し召し上がってみてください。」
「よく召し上がってくださって、嬉しいです」
食事の時間を和やかに楽しく過ごすことは、生活にメリハリを与えてくれます。
食事時の話題としては、食べ物の話やスポーツのニュース、季節の話題など、楽しい気分になれる会話を心がけましょう。
3.トイレの介助
排泄の介助を受けることは、誰もが気が進まないし、失敗したとなるとさらに複雑な感情になります。
どう言葉がけをしたらよいかがむずかしい状況ですが、そんな時こそできるだけ相手の気持ちに寄り添いながら会話をしたいですね。
(排泄介助をこばまれたとき)「ごめんなさいね。お嫌でしょうが、ちょっとお手伝いさせてくださいね」
「気がつかなくてごめんなさい。もっと早く声をかければ良かったですね」
(トイレを促すとき)「お散歩の前に、トイレを済ませてしまいましょう」
4.入浴のとき
お風呂嫌いな人、介助をこばむ人など、入浴に関する問題はさまざまです。
無理じいすると、その後のコミュニケーションにも悪影響が出るため、相手が納得のいくように説明をしつつ、誘導してあげましょう。
「お風呂の準備ができましたので、どうぞお入りください」
(お風呂嫌いな人に)「体を拭かせていただきましょうか。今日は足だけでも洗いましょうか」
「お風呂上がりに、おいしいジュースを召し上がってくださいね」
5.レクリエーション
レクリエーションの雰囲気を盛り上げるには、いつもより大きな声で、元気な笑顔で話すことも大切です。
丁寧すぎるとその場にそぐわないこともあるので、楽しい雰囲気になる声掛けが必要です。
(参加を促すとき)「〇〇さん、腹ごなしに軽く運動されませんか?」
(参加してくれたとき)「よく来てくださいました。ありがとうございます」「〇〇さん、お待ちしていました!」
(負けて不機嫌になったとき)「惜しかったですね。次は頑張ってくださいね」
1.笑顔で話す
朝、おはようございますと挨拶するときに、目を見てニッコリしながら言われる場合と、不機嫌そうに言われるのでは、受け取る側の印象はかなり変わります。
顔を見て笑顔に感じてもらうポイントは、口角があげて、目が笑っていること。
会話するとき以外でも、その状態をキープできるようになると、穏やかで話しやすい人という印象をつくることができます。
2.声のトーンは少し上げて
低い声は、怖そう、取っつきにくい、怖そう、といったマイナスの印象を与えてしまいがち。
無理をする必要はありませんが、自分の地声のトーンよりも意識して一段階あげるつもりで話してみましょう。
3.ていねいに、分かりやすく話す
高齢の方は、耳がとおくなると同時に、話の内容をすぐに把握する理解力や判断力が低下していきます。
うまくコミュニケーションを取るために必要なのは、ゆっくりはっきりと話すこと。
何か行動を起こしてほしいときは、説明をシンプルに、短く話すこと。
結論は、できるだけ前にもってくるようにすると伝わりやすくなります。
4.話し方は、相手の体調にあわせながら
明るく元気よく話すことが基本ではあるものの、相手の体調がすぐれないときには、その状況にあった声かけを心がけましょう。
語りかけるタイミングや話のスピード、やさしい雰囲気など、相手の気持ちになって想像すると、温かみある表現ができるのではないでしょうか。
まとめ
敬語や言葉遣いというのは、心の姿勢のよさを表します。
常に相手を尊重する気持ちやほどよい緊張感があるからこそ、良い信頼関係を築いていけるのです。
言葉というのは、固く閉ざした心を照らしてくれる灯りにもなれば、人の心をグサリと刺す鋭利な刃物にもなります。
言葉の力を信じて、いつも気持ちよく会話ができれば、大切に思ってくれている、人生の先輩として認めてくれている、と受け取ってもらえるはずです。