年齢と共に耳が聞こえにくくなるのは自然の流れなのですが、耳が遠くなることが認知症発症の一因になると厚生労働省から発表されていることはご存じでしょうか。
2012年の厚生労働省の調べによると日本の認知症患者は約462万人で、65歳以上の高齢者の7人に1人の割合でしたが、団塊世代が後期高齢者となる2025年には約700万人を超えて5人に1人になると見込まれています。
難聴は加齢とともに進行していきますが、現代社会では静かで落ち着いた環境が少なくなり、騒音にさらされた耳が聞こえの自己修復に必要な時間のないままさらに騒音にさらされるため徐々に悪化していくのです。
耳を意識的に守っていかないと、加齢とともに難聴になる可能性は、誰もが隣り合わせに持ち合わせているということなのです。
今回は難聴と認知症との関係についてお話ししたいと思います。




誰にでも起こりうる「難聴」


難聴は年を重ねるにつれ、誰にでも起こる可能性があります。
聴力の低下は一般的に30代から始まると言われており、高齢になるにつれて聞こえにくくなるのは、感音性難聴と呼ばれるものの一種です。
加齢とともに聴力の神経が衰えていき、高音からだんだん聞こえにくくなっていきます。
聴力検査での音は問題なく聞こえるのに、会話や生活音は聞こえにくいという場合もあるようです。
確かに聴力検査で「ピー」という音が聞き取れれば、「聞こえる」と思っている方も多いのですが「きく」には「聞く」と「聴く」があり、「聞く」とは、単純に耳に音が入って来ること=音の存在を検知することです。
それに対して「聴く」とは、目や耳、脳を使った日常のコミュニケーションによって、音の内容を理解することをいいます。
聴力検査での「きこえる」は「聴こえる」のではなく「聞こえる」状態なのです。
私たちは外界から入ってくる情報を目や耳で取得し、それを脳で解釈分析して判断しています。
会話は、相手の表情や態度など目から取り入れる情報が3割、言葉として耳から入ってくるのが7割なのですが、私たちは耳から入ってくる情報の大半を捨てています。
耳は、必要なものだけにフォーカスする働きがあるのです。
この耳が積極的に情報を捨ててしまう力というのは、脳でその音が聞き取るうえで価値があるかどうかを判断し、雑音として入ってくる音は内耳でフィルターにかけているのです。
検査の「ピー」という単純な音と違い、世の中にはさまざまな社会音があるため、生活のなかでそれをよりわけて理解するのが難しくなっているということもあります。


自分も他人も気づきにくい「難聴」

加齢による聴力は徐々に低下するため、気づかないまま対応が遅れることが少なくありません。
また、難聴はわかりづらい障害で周囲の人から理解されにくい側面もあります。
年をとれば必ず難聴になるというわけではありませんが、いわば宿命的なものです。 特に加齢性難聴はじわじわと起こるため、自分では気づきにくく高い音から聞こえなくなっていきます。
会話の中でも子音が聞き取りづらくなり、「七(しち)」と「一(いち)」や、「加藤(かとう)さん」と「佐藤(さとう)さん」を聞き間違えたり、聞き分けづらくなったりすることがあります。
耳で言葉を聞いて、脳で思考をし、言葉で返す、というのが会話をするプロセスです。
つまり聞き取る力は、脳で思考をするための大事な情報源であり聴覚によって、「楽しい」「うれしい」などの感情を引き起こします。
聴覚はコミュニケーションをする上で非常に重要な役割を担っているのです。
聞こえる音が次第に減っていく難聴の進行は、コミュニケーション能力も低下させていきます。
耳からの情報は様々な人間の情緒にも大きく作用するのです。




難聴と認知症の関係性

2015年1月、政府は新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)を策定。
新オレンジプランは、高齢化が急速に進む日本の認知症の対策強化に向けての国家戦略です。
認知症の発症予防と認知症高齢者の生活を支える仕組みづくりに取り組んでいく政策のなかに、発病の危険因子の一因として「難聴」があげられています。
なぜ、認知症と難聴に関係があるのかというと、耳が聞こえづらくなると周囲からの情報量が減少し、他人の話が聞き取れない、コミュニケーションが成立しないなどの経験を何度も繰り返すようになります。
進行が進むにつれ益々会話をすることが億劫になり、他人と関わり合いを持つことに消極的になっていくと、その結果、社会との交流が減り、精神的健康にも影響を与え、認知機能の低下につながっていくのです。
難聴=認知症ではありませんが、難聴になったことでコミュニケーション能力が低下し、社会との関わりが減ったりすることで認知機能に影響が出る可能性があるということです。
事実アメリカでの研究結果では、難聴の見られる被験者は難聴のない被験者と比べて、脳の委縮速度が早いことが報告されています。
また、別の研究結果では、難聴の人は聴力に問題のない人と比べ、認知能力が30〜40%も低いことが判明しました。
日本の研究結果では、認知症になるリスクは軽度難聴、中等度難聴、重度難聴では標準的な聴覚に対してそれぞれ2倍、3倍、5倍もリスクが高まる結果が報告されています。



こんなサインが見えたら注意

◆笑顔減り、感情表現が少なくなった
コミュニケーションに欠かせない、聞くこと、見ること。
聞く力や見る力の衰えによって会話が減ってきたり、ふさぎがちになったりします。
笑顔や感動することが減ってきたかなと感じたら、難聴の始まりを疑ってみましょう。

◆テレビの音が大きくなった
テレビの音量は難聴の判断がわかりやすい方法です。
子ども世代が明らかに大きな音だと感じる時は、まず難聴が始まっていると疑ってみてください。

◆返事に時間がかかる
老化はあらゆる情報処理や動作を緩慢にしていきます。
会話を理解する脳の処理速度も遅くなるので、難聴が進み耳からの認知力が低下するといつも頭の中は何かの情報を処理している状態になります。
さらに現代人の会話スピードは年々早くなっているというのも高齢者がついていけない原因のひとつです。
子ども世代が高齢の親と話すときのポイントは、「間」を大事にすること。
言葉の区切りがわかるように、はっきりゆっくり会話するようにしましょう。

◆会話のスピードが遅くなった
会話を理解するスピードの低下は、会話のスピードの遅さにつながります。
小さな音が聞きとりにくくなり、雑音の中からことばを拾いあげることが難しくなると、言葉のキャッチボールが苦手になってきます。
日常の会話の中で次第に進行する難聴は、そうした変化を感じ取ることがなかなか難しいのですが、横文字言葉や新しい言葉を取り扱う時に隠れていたスピードの遅さを発見できることがあります。

◆聞き間違いが多い
加齢に伴う難聴の特徴は、サ行、タ行、カ行、ハ行などの音素での聞き間違えが増えることです。
「加藤」か「佐藤」かがわからない。
「ピンチ」か「パンチ」か「ペンチ」かをうまく聞き分けられない。
「ミシン」か「ニシン」かわからないなど、わざとふざけているのか、聞きとれないのか、認知症からくるものなのかはなかなかわかり辛いところはあります。
しかしそういったやりとりが増えてきたら、とりあえず耳鼻科で聴力検査を受けることを考えてみましょう。
私の母もそういった難聴の症状がでていましたが、聴こえの悪くなった親に対して子どもが耳元で大きな声で話すことは親の聴こえをさらに悪くする可能性があると知ったので、私は大きな声でしゃべらず、逆に顔を見ながら小さな声ではっきりしゃべることを心掛けていました。
難聴が疑われる親がいる方は、以下の5つのポイントに注意して話してみてください。

①注意をひいてから話し始める
②顔をみながら話す
③ゆっくり話す
④はっきり話す
⑤そばでスキンシップをとりながら話す


65歳を超えると急激に難聴を患う率がふえ、75歳以上で70%程度、80歳以上では80%のひとが罹るといわれます。
私の母においては70代後半から80代前半にかけてゆっくり進行していく感じでした。
難聴が悪化していくとコミュニケーションが妨げられ、不安や抑うつ、意欲の減退などへの心理的な影響がでてきます。
周囲が話し方を気をつけることで心理的な影響も緩和することができます。
難聴の時に使えるものとして補聴器は一般的ですが、雑音が大きく聞こえてしまったり、装着が煩わしかったりで好まない方もいます。
母はみみ太郎 という人間の耳と同じ働きをする人工耳介を付けていました。
みみ太郎は補聴器では得られない「立体的で自然な音」で聴けるので、雑音が耳に入りにくいようです。
希望があれば無料の貸し出しから始められるので、その方の難聴にあうのかを試すことができます。
母もみみ太郎を付けてからは、コミュニケーションも活発になり、一時は見ることをやめていたテレビドラマをまた見るようになりました。
元々テレビドラマが大好きだったので、聴力が改善されてまた見たいという意欲がわいたのだと思います。


まとめ

加齢性難聴は全体的に言葉がぼやけて早口でしゃべるほど聞こえにくくなります。
聞こえないと思って耳元で大きな声で叫んで話しても、結局うまく伝わらないとお互いにイライラして疲れてしまいますよね。
子世代の話し方と親世代の耳の補聴器具をうまく取り合わせながら、お互いにコミュニケーションのストレスを減らすよう工夫することが大切なのではないでしょうか。

筆者プロフィール

こらっと

大阪生まれ。団体職員兼ライターです。
平日は年季の入った社会人としてまじめに勤務してます。
早いもので人生を四季に例えたら秋にかかる頃になり、経験値は高めと自負しています。
このブログがいきいき生きる処方へのきっかけになれば幸いです。

お問合せはこちらで受け付けています。
info.koratwish@gmail.com


海外からの人材受け入れ団体職員として働いてます。
遡ると学生時代のアルバイトでアパレルショップの売り子から始まり、社会人となってから広告プロダクションでコピーライターとして働きました。
結婚・出産を経て、印刷会社のグラフィック作業員として入社。
社内異動により⇒画像・写真加工部⇒営業部(営業事務)⇒社内システム管理者と、いろんな部署を渡り歩きましたが、実母の介護のためフルタイムでは身動きが取れなくなり、パート雇用として人材受け入れ団体に時短勤務転職しました。

2019年実母が亡くなり、パートを続ける理由がなくなったため物足りなさを感じる毎日でしたが、年齢の壁など一顧だにせず(笑)再びフルタイムで働きたい!と就活し続けた結果、別の人材受け入れ団体に転職しました。
責任も増えましたが、やりがいも増えました。

デスクワーク経験が長く、Office関係の小ワザや裏ワザ、社会人としての経験を共有できれば幸いです。

家族構成は夫がひとり、子どもがひとり
キジ猫のオス、サバ猫のメスの5人家族です。

趣味は、読書、語学学習、ホームページ制作などなど
好奇心が芽生えたら、とにかく行動、なんでもやってみます。

猫のフォルムがとにかく大好きで、
神が創造した生物の中で一番の傑作だと思ってます。
ちなみに「こらっと(korat)」は
タイ王国のコラット地方を起源とする
幸福と繁栄をもたらす猫の総称です。




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