本人も今まで通りの生活を続けるし、自分が認知症だという自覚はまったくありません。
しばらくは今まで通りの平穏な日常が続きますが、まだら認知症の症状が見え隠れし始めると、認知症という病魔が確実に進行しているという現実がのしかかってくるのです。
今回は認知症の初期におこる、まだら認知症についてのお話です。
体力の衰えや体の痛みといった身体的不自由さをフォローする介護と認知症という病気を抱えた高齢者の介護は全く違うからです。
1.筋肉、関節などの衰えからくる活動レベルの低下や倦怠感はあるが、物忘れはない。
2.筋肉、関節などの衰えからくる活動レベルの低下や倦怠感があり、認知症も患っている。
3.筋肉、関節などの衰えからくる活動レベルの低下はなく、認知症を患っている。
1番は、加齢による物忘れはあっても、時間や曜日、金銭感覚の概念を失うことはないため、身体が思うように動かないことを除けば、自分のことは自分で判断できます。
2番は、脳が委縮して次第に記憶が失われていきますが、身体が思うように動かないため自分の意思を行動に移すことができません。
脳の萎縮により日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態でありながら、身体はしっかりと動く3番の介護が一番つらいものになります。
介護者が体力的にも精神的にも一番手を焼くのはおそらく3番の高齢者でしょう。
その思いつきが現実の思考からくる時と、現実ではないところからくるときがでてくるわけです。
例えば、頭の中が20歳代に戻っている時に思いつくと、住んでいる家は今居る現実の家とは違うと判断して、目の前で話していても私のことを娘だとわかっていながら帰るところは自分の実家だと思いこみ、話のタイミングで「そろそろ帰らせてもらいますね」と私に断りを入れて帰ろうとします。
「私は誰ですか?名前を呼んでみて?」と問いかけ「○○○ちゃん、私の子ども」と口にすることができれば、自分に50歳代の娘がいると認知しなおすことができ、そこから今居るところが自分の家である記憶が蘇えり納得します。
一部の記憶が時々欠如して現実の世界と過去の記憶の世界が混ざり合う症状は、認知症発症の初期に見られます。これを「まだら認知症」と言います。
すべての記憶機能が同時に低下するのではなく、認知症の症状が時間によって出たりでなかったりして、記憶の一部が消えたり点いたりまだらに出現することからこう言われています。
まだら認知症は、脳が委縮してる場所によって出てくる症状も異なるので、一般に共通した症状ではなく、認知症状のムラと表現する医師もいます。
私の母は、まだらの症状が出る時はいつも20代に戻るようでした。
フルタイムで務めていた私と夫、学生の娘が昼間留守にしている時に、母が買い物に出て、そこでまだらの症状が出たのか、タクシーで実家に帰ろうとして何度も警察のお世話になりました。
同居していた家からタクシーで2〜30分のところに母の実家はあるのですが、すでに誰も住むことがなく平地なっています。
住所は覚えているので、タクシーの運転手さんはしっかり届けてくださるのですが、いざ着いてみると、そこに家がない!と驚いて、母も説明できずオロオロし始め、やっと認知症の症状かもせれないと警察に届けられるというパターンです。
手を挙げてタクシーを止められれば、一見認知症を抱えているようには見えないので、運転手さんも乗せてしまいますよね。
私と夫も、警察署に数回母を迎えに行き事情をきいたものの、認知症からの行動は要領を得ません。
本人もどうしてこうなったかわからない、ただ迷惑をかけたようだ、ということは漠然とわかるだけです。
迎えに行った当日はさすがに落ち込んで「もう出かけたくない」と弱音を口にするのですが、日にちがたつと忘れてまた同じ行動を繰り返します。
母の場合は落ち込むだけでしたが、被介護者が男の方だと、逆切れして暴力をふるうこともあり、身体機能が健全なだけに、介護者が翻弄されて疲れ切ってしまいます。
介護は長期の戦いになりがちです。
この時期まで来たら、24時間が介護時間といっても過言ではありません。
疲れたと感じてもゆっくり休むことがなくなり、あっという間に一日が過ぎていきます。
この段階に来たら、もう一人で1人で介護を抱え込まないようにしてください。
まだ頑張れる、まだできる、と思う余裕があるときに、楽になる手段を講じることが大切です。
楽になることは、決していけないことではありません。
自分がやらなければならない、という義務感を捨てて、行政や民間の介護サービスに助けてもらえるところは積極的に助けてもらいましょう。
まとめ
残念ながらごまかし続けることはできないのです、近い将来認めざるを得ない日は必ずやってきます。
昨日できていたことが今日できなくなってたり、本当に突然目の前に現実を突きつけられます。
少しでもまだら認知症かもしれないと気づいた場合は、身体機能に異常がなくても専門家へ相談するなどして1人で抱え込まないようにしてください。
早期の発見が認知症の進行を緩やかにしてくれることもあります。
今は介護者が精神的にゆとりがもてる便利なサービスや介護用品がたくさんそろっているので、すべてを自分の手でやろうと無理をしないで積極的にフォローを求めてください。
助けてくれる環境が必ずあります。