会議を上手に進める能力もリーダーシップの資質のひとつです。
会議では、誰もがお互いの意見を自由に交わし合いながらスピーディーに合意形成を図っていくのが理想の状態ですが、こうした会議運営に慣れていないと、時折、参加者の間で意見の対立が起こると感情的になり、会議そのものが険悪な雰囲気へと変わってしまうことがあります。
そうなると、自分の意見を控える人が出たり、結論を先送りしてしまうことがあるのも事実です。
このような事態を避けるためにリーダーシップの資質のひとつとして、会議での意見対立を解消して自由な発言を支援するファシリテーション能力がより一層求められるようになりました。
今回は、会議での意見対立の場面を取り上げ、ファシリテーターとして効果的なフレーズを通じて、会議でのコミュニケーションを円滑に進めるポイントを見ていきたいと思います。




前例がない」で部下をシャットアウトする上司たち



◇ ◇ ◇

ある企業の研究開発チームの新任課長・Aさんは、顧客志向の研究開発を行おうと、顧客アンケートを実施したいと会議で発言しました。

ところが、司会進行役の部長から、「顧客アンケートの類はマーケティング部門の管轄で、研究部門では前例がないから予算はつけられない」と強い口調で一蹴されてしまいました。
Aさんはその場の空気を読んで、嫌な雰囲気の会議にならないようにと、それ以上自分の意見を伝えませんでした。


こういう事態に陥りがちなのが、上司が司会進行している会議です。

部下の発言に対して、「それではうまくいかない」「前例がない」などと否定し、上司の既定路線での会議に終始してしまうことになります。
これでは、部下は「どうせ何を言っても無駄」と考え、新たな発想が生まれず、意見を言うことを諦めてしまいます。

そこで、おすすめなのが、上司が司会進行をするのではなく、別にファシリテーターを置く方法です。


ファシリテーターとは会議などがうまく運ぶために支援をする役割を担う人の事です。

会議での意見対立に慣れていないと、反論されるのを怖がる人も多くいますが、ファシリテーターがクッション役となることで、安心して発言ができるようになります。


ファシリテーターになるスキル「ファシリテーション」は、誰でも身に付けることができます。
では、ここからファシリテーションのポイントと活用したいフレーズを見ていきたいと思います。


ファシリテーターの一番の役割は、場の雰囲気づくりです。
意見対立はポジティブだという認識を率先して言動で示し、全員と分かち合います。

会議の冒頭で、目的やゴール設定、参加ルールを決めると円滑に進みやすいのですが、それでも意見の対立で険悪なムードになってしまうことはあります。
そのときに避けたいのが、感情的な人をなだめようとするフレーズです。

たとえば、発言した本人に「そう感情的にならないでください」「少し落ち着いてください」と言ってしまうと、悪気はなくても、このフレーズをみんなの前で言われたことで、当の本人は「真剣に話しているだけだ」と反発したり、軽くあしらわれたと受け取ってプライドが傷付いたりするなど、かえって気持ちを逆なでしてしまう場合があります。

むしろ、多少感情的になっていたとしても、意見を伝えてくれたことに対して、「ご意見をお聞かせいただいてありがとうございます」とプラスの言葉を伝え、み「闊達(かったつ)な意見交換ができましたね」と、場をポジティブに捉える発言を積極的に行い、参加者に対立意見の交換はウエルカムという姿勢を示しましょう。


イベントや研修でファシリテーターを担当する場合、まずは「何を話しても安心安全な場である」という環境づくりを大切にすることで、意見が言いやすい会議の環境をつくっていきます。
その上で、「時間も限られているので、いったん、方向性を確認しませんか」など声をかけて、ディスカッションを進めていきましょう。


また、意見の食い違いが続くと、時々意見の批判と人格の否定が混ざった発言が飛び出すことがあります。

たとえば、「あなたはいつも優柔不断だから/詰めが甘いから、こんな事態になってしまったんだ」といった発言です。

個人の性格を攻撃し始めると、議論が袋小路に入り込んでしまい会議が停滞してしまいます。

そこで、こういう場面では積極的に介入をして、意見と人格に対する部分を切り離し、「期日に間に合わせるためにできることを考えませんか」と、論点を整理して話し合いを先に進めましょう。




ファシリテーターのあいづちフレーズは状況を悪化させる



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次のステップは、それぞれの意見を理解する時間です。


お互いの対立点の背景や理由を確認するために、ひとりずつ質問で意見を具体的に引き出していきます。
このときにホワイトボードなどで議論の構造を図式化して、全員で共有しながら進めるといいでしょう。


ここで大事なのが、それぞれの発言者の良き理解者になることですが、ここに落とし穴があります。

しっかり傾聴姿勢を示す必要がありますが、「それはいい意見ですね」「それは素晴らしいですね」というあいづちのフレーズは状況を悪化させる危険性をはらんでいるので要注意です。


ファシリテーターは「自分の意見を言わない」「中立を守る」「どちらの見方にもならない」というのが基本です。

メンバーの意見も一人ひとりさまざまだからです。


この不用意な一言のせいで、せっかくの発言を控えようと思ったり、反発したりすることもあります。


ファシリテーターは、対立する意見には良しあしをジャッジせず、「なるほど、そういう意見もあるのですね」というように、客観的な立場であいづちを打ちながら話を整理していきましょう。


誰もが「自分を理解してほしい」と思っているのですから、ファシリテーターにとって傾聴は必須スキルです。


この段階で、しっかり意見を引き出して「教えていただきありがとうございます。私は○○と理解しました」というフレーズで、いったん発言の内容を受け取ったという合図を送ると安心するので、感情的になっていた人も落ち着いてきます。


この過程で「Nさんの主張は○○と解釈してよろしいでしょうか」「私は、○○と理解しました」というように意見を自分の言葉で要約しながら確認をしていくと、「いやそうではなくて××なんですよ。」と、認識がズレていることに気付くときがあります。

実は、これが合意形成をしていく大切なプロセスになります。


意見が対立している人たちでも同じ組織にいるため、高い視点で見れば、「自分たちの会社をより発展させる」という同じ目的を持っています。
しかし、ちょっとした認識のズレから意見が対立してしまうケースが散見されるのです。


DX推進部のTさんは、会議で営業現場にDX導入を提案しましたが、営業現場からは、「今のままで特に問題はない」と導入に消極的な答えが返ってきました。

そこで、ファシリテーター役が双方に「生産性の向上という目的は同じ」であることを確認した上で、意見対立の理由を洗い出していきました。

すると、そもそも、これまでアナログが主流の営業現場にとって、デジタル化に伴う業務の変化への不安が大きいことが分かってきました。

そこで、まずは「デジタル化は簡単で使いやすさを最重視」という大前提を合意形成しました。

すると、大きな意見対立の構造は解消されて、人材不足、営業担当の能力差、各種コストの削減といった、営業現場が抱えている課題を解決すべく、優先順位を付けて段階的にDXを導入していくという方向性がまとまりました。


この事例のように、けっして表面的な言葉だけでは、意見対立の本当の理由や背景が分からない場合もあります。

同じ企業でも、立場や年齢や文化・社会環境、価値観、経験の違いなどから、当然個々の意見や考え方は違います。

意見が対立したときにはその構造を丁寧にひもといていきましょう。




「一般的には」の根拠を質問で確かめる



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本来ならば、議論は事実を数字やデータに基づいて伝えるものですが、時には、曖昧な主張も混ざっていることがあり、その場合、数字の根拠、何に基づいて主張しているのか、出所はどこか、誰の発言かなど、実際にあった出来事や数字を確認して事実を明確することが必要になります。


しかし、「何に基づいて○○と主張しているのですか?」などと、あまりストレートに聞くと相手の気に障ることもあります。


そこで、「もし差し支えなければ、そうおっしゃる理由をもう少し具体的に教えていただいてもよろしいでしょうか?」とクッション言葉を挟む、あるいは「勉強不足で申し訳ありません。ちなみにそういう数字がどこかに出ているのでしょうか?」のように“教えてください”というスタンスで聞くと、角が立ちにくくなります。


また、注意をしたいのが「一般的には~」「普通は~」というフレーズが目立ち始めたとき。


話していくうちに「一般的には~」「常識的には~」「今まで~」「みんなは~」「普通は~」と一般論にしがちですが、実は「私としては~」「○○部の慣習としては~」が事実だったということも少なくありません。

このように言葉の使い方で気になった際にも、念のため質問をして事実を確認していくことが大切です。


ファシリテーターは、発言者が偏らないように「他の人の意見も聞いてみたいのですがいいですか」「他に意見はありませんか」「他に気になる点はありませんか」と積極的に他のメンバーにも発言を促しましょう。これには、3つのメリットがあります。



【積極的に他のメンバーにも発言を促す3つのメリット】


1.他の人が発言することで、場の空気を変えることがでる。

それと同時に意見対立している方に、少し冷静になる「間」を提供できる。


2.さまざまな視点から問題を解決する準備ができる。

また、情報が欠如していると、物事の認識の違いが生まれて合意が得られにくくなる場合もあるので、議題に関する情報はできる限りオープンにし、メンバー全員で共有できるようにすることが大切。


3.決定事項への納得感が高まる。

この時点で、意見を積極的に引き出すことで、後から「実は不本意だった」「誰かがやってくれると思った」と、責任転換をしたり、人任せにしたりする事態を防止できる。全員が当事者意識を持って仕事に取り組めるようになる。

口調が相手の感情に与える影響も忘れてはいけません。

相手に理性的な対応を求めるのと同時に、自分自身の話し方の印象管理も大切です。

非難するような強い語調にならないように、落ち着いた低めのトーン、そして早口でまくしたてないように、理解しやすいスピードといったように話し方をコントロールします。

もちろん言葉だけでなく、表情やしぐさなどの非言語のコミュニケーションも周囲は見ています。

このようにファシリテーターは話し方や非言語部分でも安心・信頼感を与えましょう。


会議で対立が起きることは健全なことです。

むしろ、組織やチームを活性化していくためには、この対立を通してどのように互いを理解し合えるかが大切です。




まとめ

長い間年功序列が続いてきた日本型企業の組織では、「空気を読む」「長いものに巻かれる」というように、会議での目立った対立を避けてきた傾向が強いようです。
しかしこのような状況が続くと、活発な会議ではなく、意見が出ない会議となってしまい、新しい発想がうまれず、組織として沈滞してしまいます。
会議で意見が対立した場合や急に感情的になった人に対して、ファシリテーターという立場での声掛けのヒントをご紹介しました。
ファシリテーターとしてリーダーシップを発揮し、自由な意見が飛び交う会議の環境づくりに大いに貢献されることを願っています。

筆者プロフィール

こらっと

大阪生まれ。団体職員兼ライターです。
平日は年季の入った社会人としてまじめに勤務してます。
早いもので人生を四季に例えたら秋にかかる頃になり、経験値は高めと自負しています。
このブログがいきいき生きる処方へのきっかけになれば幸いです。

お問合せはこちらで受け付けています。
info.koratwish@gmail.com


海外からの人材受け入れ団体職員として働いてます。
遡ると学生時代のアルバイトでアパレルショップの売り子から始まり、社会人となってから広告プロダクションでコピーライターとして働きました。
結婚・出産を経て、印刷会社のグラフィック作業員として入社。
社内異動により⇒画像・写真加工部⇒営業部(営業事務)⇒社内システム管理者と、いろんな部署を渡り歩きましたが、実母の介護のためフルタイムでは身動きが取れなくなり、パート雇用として人材受け入れ団体に時短勤務転職しました。

2019年実母が亡くなり、パートを続ける理由がなくなったため物足りなさを感じる毎日でしたが、年齢の壁など一顧だにせず(笑)再びフルタイムで働きたい!と就活し続けた結果、別の人材受け入れ団体に転職しました。
責任も増えましたが、やりがいも増えました。

デスクワーク経験が長く、Office関係の小ワザや裏ワザ、社会人としての経験を共有できれば幸いです。

家族構成は夫がひとり、子どもがひとり
キジ猫のオス、サバ猫のメスの5人家族です。

趣味は、読書、語学学習、ホームページ制作などなど
好奇心が芽生えたら、とにかく行動、なんでもやってみます。

猫のフォルムがとにかく大好きで、
神が創造した生物の中で一番の傑作だと思ってます。
ちなみに「こらっと(korat)」は
タイ王国のコラット地方を起源とする
幸福と繁栄をもたらす猫の総称です。




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